結side

「やーっと着いた」

私田中結は今日から高校一年生。
今日はは待ちに待った入学式。方向音痴ながら、何とか校門まで辿り着いて満足していた。
私が今日から通う桜ノ宮学園高校は校門から校舎に続く長い桜並木が有名だった。校門の前に立って一歩踏み出すとそこには美しく可憐な桜が広がっていた。うっとりして歩いている内に何かにぶつかる。
「わっ…!」
ぱっと目の前を見ると、高身長男子だった。
透き通る白肌にサラサラな黒髪。物語の王子様が出てきたのではないか、と感じるほどの美しい美貌を持ち合わせていた。
「あの、ぶつかっちゃってすみません。」
私がそう言うと、彼は私とは違う方向を向く。
(え……?)
「大丈夫ですよ。気にしないでください」
そう言って何かを探すような動作をし出す。
あ、メガネでも落としたのかな、それかコンタクト?
「あのっ、何か落としたんですか?」
私がそう言うと、一瞬下を向いて彼は恥ずかしそうに頭をかいた。
「コンタクト落としちゃって…」
どこで私が話してるかも分からないぐらい見えてないって相当やばいんじゃ……
そう思って私も探すことにした。
「手伝います。1人より2人の方が早く見つかるかもですし」


かれこれ1時間以上探した。
コンタクトはそんなに大きくないから見つけるのも大変。何ならもう踏まれて壊れてしまっているかも。

「あっ、これ……?」

植木の茂みにコンタクトケースと思われるものが落ちていた。それを拾い上げると彼に差し出す。彼はそれを目にくっつきそうな程近づけるて凝視すると、小さく頷いた。そしてコンタクトをつける。

「本当にありがとうございます。助かりました」
今度はちゃんと私の方を見て話してくれた。
あまりにかっこよ過ぎて見られるとなんか緊張してしまう。
「いえいえです!良い3年間になるといいですね」
そう言って私は歩き出した。
入学式は多分遅刻しちゃったけど、人助けって思えばなんてことないよね!
「あのっ!」
大きい声で呼び止められてふと足が止まる。
「名前だけ聞いてもいいですか?」

「……、田中結です。」

名前だけ言うとそのまま歩いていった。
あんなかっこいい人と関わる機会なんてないだろうし。彼の名前は聞かなかった。その内噂になるだろうしね。

??side

「あのっ、何か落としたんですか?」
僕にぶつかった女の子が声をかけてきた。
「コンタクト落としちゃって」
そう言うと彼女は何かを探し始める動作を始めた。目が悪くてあまりはっきりは見えないけど、僕のコンタクトを探そうとしてくれているみたいだ。

「あっ、これ!」
彼女は思わず声を上げる。
そして僕に見つけたであろうものを差し出す。
手に取ってよく見ると僕のコンタクトケースだった。すぐにコンタクトをつけ、彼女にお礼を言う。
「本当にありがとうございました、助かりました」
そう言うと彼女はニコッと笑った。
(……!)
その時電流が走ったような感覚がした。
何かにビビッと来たようなそんな感じ。
世にいう一目惚れってやつかもしれない。

彼女はもう歩き出してしまっていた。
「あのっ!」
僕は気づいたら大声で彼女を呼び止めていた。
彼女はそんな僕を見て驚きで目を丸くする。
いきなり呼び止められたら誰だってびっくりするだろう。
「名前だけ聞いてもいいですか?」
僕がそう言うと一瞬迷ったような顔をして、
「……、田中結です」
聞こえるには聞こえるが小さくてまるで、今にも消えてしまいそうな声だった。
名前を言うなり彼女はすぐに歩き出してしまった。多分新入生だし、きっとまた会える。
そう思って僕は桜の木の枝に手をやり、ふと目を閉じた。

結side

あー、入学式遅刻して先生に怒られるし本当散々だよ……。あのかっこいい人助けられたのはよかったけど。
「12HR担任になりました、伊藤です」
先生の話が始まって、ふと我にかえる。
だめ、しっかりしなきゃ。高校では頑張るって決めたんだから。
私はいわゆる高校デビューってやつで。失敗したくない。
「あの、」
考え事をしていたらLHRが終わったようで、誰かに声をかけられる。ふと声の主の方を向くと、さっきの彼だった。
「えっと、コンタクトケースの人?」
まさか、同じクラスだと思っていなかったので思わずたじろいでしまう。
何でわざわざ話しかけてきたんだろう
意を決したように口を開くと、このコンタクトケースの彼はとんでもない事を口にする。
「僕と付き合ってください」
え?bokutotsukiattekudasai.
ボクトツキアッテクダサイ、僕と付き合ってください!?
私は思わず顔が真っ赤になる。
入学して早々告白された、しかも、教室で。
周りの女子はきゃーきゃー騒いでるし、
隣のクラスから何か野次馬来てるし、恥ずかしすぎる。
「あ、えっと……?」
何で私なんだろう、今日初めてあって、名前すら知らなかったのに。中学校も違うはず。
「だめ、ですか?」
しゅんとした顔で私の方を見る。
え、そんな顔で見ないでよ。
私は普段友達からかなりのお人好しって言われるぐらいお人好しみたいで、断れないところがある。だから、そんな目で見られたら……
「田中さん付き合ってあげなよー」
「こいつかっこいいよー?」
周りの物言いは散々なものだ。
言いたい放題言ってる。自己紹介とかも何も聞いてなくて、もはや私名前すら知らないんだけど!?でも、周りの目が__。
私に向けられる視線の数に目眩がしそうになる。
「…………っ、……はい」
周りからの圧と視線に耐えきれず、思わず私は頷いてしまった。

いたたまれなくなって私は思わず駆け出した。

入学したばかりでどこに何があるかも全く知らなかったので、気づいたら屋上に来ていた。
運良く誰もいなくて安心していると、コンタクトケースくんが屋上の入り口のドアの前に立っていた。




コンタクトケースくんと私は、屋上にあるベンチに腰を下ろした。私はすぐに本題に入った。
「私のこと、ほんとに好きなんですか?」
私は思ったことをそのまま彼に尋ねてみる。
思いがけない質問だったようで彼は一瞬考え込んだ。そして私の目を見る。
「僕田中さんに一目惚れしちゃったみたいで」
彼はそう言うと恥ずかしそうに下を向く。私に、一目惚れ……?恥ずかしそうな様子を見ているとなぜけ私がどんどん恥ずかしくなってきた。おかしい。おかしい。
「私、あなたの名前も知らないです。さっきはいって言っちゃったけど付き合えません」
オブラートに包まずにそのまま言ってやった。
だって付き合うのは好き同士なはずだし、
出会ったばかりの私たちに恋なんて生まれるはずない。そもそも名前も知らないし。
「僕は高橋瑛人です、元西中出身です。好きなものは綺麗なもので、特に桜が好きです。」
コンタクトケースくんこと高橋くんは淡々と自分のことを話し出す。
「今まで恋とかした事なかったけど、田中さんを人目見て好きになってしまいました」
そう言って私の顔を見つめる。
そんな顔で見られたら、普通の子なら好きになっちゃうよ。田中くんの顔は本当にかっこいい。僕アイドルです、って言われても信じるレベルで整っている。何ならモデルとかももうやっていてもおかしくない。それぐらい。
「でも、私は高橋くんのこと、全然好きじゃないです」
出会って間もないし、全然知らないし。なんかすごい話してはくれたけど。
「じゃあお試しって事にしませんか。今こうして付き合って僕のこと好きになったら正式に付き合うってことで」
お試しで付き合う…?今どきの高校生ってそういうものなの、と思わず心の中でつっこんでしまう。その概念は私にはなかった。だからあまりよく分からなかった。
「あー、付き合う以前に友達からってのはなしですか?」
少女漫画で振る時の定番の友達からで、って台詞。なんだろう、いわゆる社交辞令みたいな。
「友達、ですか」
そうつぶやくとしゅんとした素振りを見せる。
「付き合うって距離感近いと思うんです。ちょっとハードル高いっていうか…。私男友達とかも全然いないし慣れてないんです。」
彼は口元を抑える。「可愛い」
何て言ってるかまでは聞き取れなかった。
「でもやっぱり付き合おうよ。とりあえず1週間でいいからさ」