「ごめん、別れよう。」

出来るだけ冷酷にそう告げる。

「え...?なんで...?」

大きな二重の目をさらに大きくして、俺を真っ直ぐと見つめる。

その視線を追うように俺も見つめ返すと、その瞳が少し潤んでいることに気がついた。

「なんでもいいだろ。」

冬の屋上。

コンクリートの床が靴底から足を冷やす。

「よくないよ!なんでなの!」

大きく声を張り上げて必死に訴えかける優菜(ゆうな)。俺の彼女─いや、元カノ。

珍しく優菜が取り乱している。

その態度とは真逆のトーンで言葉のボールを返す。

「好きな人ができた。」

言葉を口にした後に、はぁ、と大きくため息をつく。

「うそ...あんなに大好きだって、愛してるって言ってくれたじゃん!」

「あの時は、な。」

「やだよ...!別れたくない...!」

その瞬間、優菜の大きな瞳から、大粒の涙が流れ落ちた。

引き金が引かれたかのように次々とこぼれ落ちる。

「って言ったって、俺好きな人がいるのに好きでもないやつと付き合わなきゃなんだろ?俺の方がいやだわ。」

あからさまに面倒くさそうな顔をして答える。

優菜は何か言い返そうとしていたが、涙が邪魔をして言葉が出ず、口をぱくぱくさせている。

「しかも付き合ってたら浮気ってことになるし、優菜にとっても悪い影響じゃん。」

真顔で強いボールを投げるように追い討ちをかける。

「ちがっ...!違うの!私は水叶(みなと)が好きなのっ!」

途切れ途切れ鼻をひくひくさせながら必死に言葉を繋ぐ優菜。