朝、目覚ましの音で目を覚まし、[昨日一つも勉強していないな]と思いながら制服に着替え、学校へ行く準備を終わらせリビングに下りる。
リビングにはお母さんしかいなくて「おはよう」と声をかけるとお母さんも「おはよう」と返しながら朝食を準備してくれる。
父はもう仕事に行ったのかと思って、お母さんと食卓につくと、父が洗面所から出てきて食卓についた。
「おはよう」と父にも挨拶をすると「おはよう」と返される。
それで父との会話は終わり、沈黙が続く気まずい空気が流れるいつもの食卓の光景が出来上がった。
この状態、この空気すべて父が仕事に行くまで続く。
父が朝食をはじめに食べ終え、準備をして「いってくる」と一言だけ言って仕事へ行く。
父が家の玄関を出て門を閉める音、車に乗る音がして、初めて私とお母さんは私の家を出る時間まで話をすることができる。
お母さんは私が学校でいじめられていること、授業を受けないで屋上に1日いること、セーターからパーカーに着替えていることすべてを知っている
そしてそれを父には言わないでいてくれている。
昨日あったことを一通り話し終わる頃には私の家を出る時間になる
準備を整えて玄関でお母さんに「いってきます」といって「いってらっしゃい」というお母さんの声を聞きながら玄関をでる。
門を締めて少し歩いたところで、いつも通りにパーカーに着替え、スマホにイヤホンをさし耳につける。
家から約15分で学校につくはずの通学路だが行きたくないという気持ちを引きずりながら歩いているため学校につくのは家を出てから30分後、だいたいいつもSHRが始まる十分前に学校につく。
いつも通りに学校について門をくぐり、玄関へ向かっている時目の前をミルクティーベージュの髪色をした高身長男子がだるそうに歩いているのを見つけた。
[あ…あの先輩だ。昨日のこと謝らないと]と思ったが声をかける勇気もなく、玄関についてしまった。
1年と2年は下駄箱の場所が分かれているためその後一緒になることなかった。
[はぁ〜先輩に謝れなかったな。声すらかけられなかったし、助けてもらったのにあんなこと言って絶対ありえないとか思われただろうな…]
なんてこと考えながら教室に行ったからかいつもの悪口もSHRの時の先生の声も耳に入ってこなかった。
気がついたらSHRが終わっていたから急いでいつもの物を持って屋上へ上がる。
屋上のドアを開けてすぐに教室に帰ろうかと思った。
屋上には昨日の先輩が寝ていた。
ドアを開けた音で目を開けてこちらを見るから思わず目があってしまった。
くるっと向きを変えて帰ろうとしたが
けど「なんで逃げんの?」と言われてしまい仕方なく屋上のドアを閉め先輩の近くにいって腰を下ろす。
少しの沈黙のあと先輩に「なんで逃げようとした?」と聞かれ
「特に理由はないです」というと
「理由なく逃げる人なんているわけないだろ?馬鹿か?」と言われてしまい私は
「昨日助けてもらったのにあんなひどいこと言って、どんな顔して会えばいいのかわかんなくて」というと
「別に助けてない。ほんとに邪魔だったから邪魔って言っただけ」なんて言われてしまった。
「そうですか。そうですよね。屋上で初めて会ったその日に初対面の名前しか知らない人間なんて助けないですよね」なんて皮肉めいたことを言った。
そしてまたしても沈黙が流れた。
皮肉を言いたかったわけじゃないのにと思っての沈黙
先輩は何を思っての沈黙だったのかはわからない。
その沈黙に耐えられないと言うかのように急に立ち上がった先輩は「じゃあな」と一言だけいって屋上から出ていこうとするその後ろ姿に私は思わず「ちょっと待って」と声をかけていた。
「なに?」と先輩に言われ、少しためらったが
「ありがとうございます」と言った。
そしたら「それは何に対するありがとう?」と言われた。
だから「先輩は助けたつもりなくても私は助けられたから。だからありがとうございます」そうに言うといつも不機嫌な顔の先輩が驚いた顔をして
「お前…なんで泣いてんの?」なんて言うから、「え…」と頬を右手で撫でると少し温かい雫が手に触れた。
泣くつもりなんてなかった私は咄嗟に「なんでもないです。気にしないで行ってください。」そう言って先輩と逆方向を向き涙を必死に拭っていた。
そうしている間に後ろから屋上のドアを閉める音がした。
少しして振り返り、先輩がいないのを確認してからスマホにイヤホンをさしこみ耳につける
時折流れてくる涙を拭いながら音楽を聴いていた。
すると突然後ろから冷たいものを頬に当てられた。
思わず「きゃ!!」といってイヤホンを外すと、私の後ろにはさっき教室に帰ったはずの先輩がミルクティーを持って立っていた。
「なんで…?」というと
「お前ミルクティー好きか? やるよ」といって渡された。
それを受け取ると先輩は私の横に腰をおろして私に渡したのと同じミルクティーのペットボトルを開けて一口飲んだ。
「先輩さっき教室戻りましたよね?なんでここにいるんですか? あとなんでミルクティー好きて知ってるんですか?」そう聞くと
「俺、教室に戻るなんて一言も言ってねぇだろ? 勝手に勘違いしてんじゃねぇよ ミルクティーは俺が好きだからお前が好きなのは今知った。」
なんて相変わらずの口の悪さを発揮しながら言われてしまった。
思わず文句を言おうとしたその時
「それに、後輩が目の前で急に泣き出したら誰だって心配するだろ。」と顔をそむけながら言われた。
[心配してくれていたのか、そんな感じないけど]とも思ったけど
嬉しくてまたしても泣きそうになる私を見て「これ以上は泣くな。鬱陶しい」なんて言いながら先輩はその場に寝っ転がって空を見上げていた。
私も同じように寝っ転がって空を見上げることにした。
しばらくして何限終了かはわからないがチャイムが鳴りそれと同時に先輩が
「お前が何を抱えててどんな事情があってここにいるのかは知らねーけど、泣き出したくなるほど辛くなったら誰かを頼ればいいんじゃねーの? それが大人じゃなきゃといけねーとか友達じゃなきゃいけねーとかそういうのはないんじゃね? 例えばたまたま屋上で出会ったお互い学年、クラス、名前だけしか知らない俺とかでもいいんじゃね?例えばだけどな。いいことは言えねーし、的確にこうすればいいってアドバイスもできねーけど話聞くだけならできるからさ。」
こんなに普段クールと言うかだるそうにしてる先輩がまさかそんなことを言うなんて思っていもいなかった。
でもそれが先輩の中での精一杯の優しさなのかもしれないと会って日が浅い私は断定こそはできないが、そんな気がした。
お昼前に先輩は教室に戻って行った。
「気が向いたらまたここに勝手に来るから。今度は逃げようとすんなよ」という言葉を残していった。
先輩が戻ってからなんとなくお昼を取りに行く気持ちになれなかった私は、先輩からもらったミルクティーを少しずつ飲みながらイヤホンで音楽を聞き帰りのSHRまでの時間を過ごした。
その日は家に帰るまでの家路も家に帰ってからの父の小言もあまり気にならなかった。