今から、3年前 当時冬菜が中学1年生の冬 つまり俺は中学2年生ってことになる
俺には当時付き合って1年になる彼女、夏穂がいた。
冬菜と出会った日、まさにその日に俺は夏穂の浮気が発覚し、学校帰りの放課後、俺と夏穂が通っていた隣街の中学近くの公園で話をすることになったが話の途中で喧嘩になり、俺は夏穂に平手打ちをされた。
浮気の理由は、つまんない、優しすぎるというものだった。
周りからの評判が悪いって言うのも理由の1つだった。
確かに、女子に話しかけられても、告白をされてもいつも淡白で素っ気ない返ししかしてこなかった。
女子の中で評判が悪いと言われても、仕方がないと思う
でも、夏穂だけは違うと思っていた。
でも、夏穂は彼氏を自分のステータスとしか思っていなかった。
そんなふうにしか思っていなかったのだから、振られるのなんて時間の問題だったのだと思う
そして、俺のことを置いて夏穂は浮気相手の元へと帰っていった。
俺は公園のベンチで放心するしかなかった。
家に帰る気力なんて残っていなかった。
ふと、もうこんな街になんていたくない 夏穂のいる街にいるのは苦しすぎると思った俺は家に帰らずに宛もなく電車に乗ってなぜか隣町である冬菜の住むこの町で電車を降りた。
フラフラと宛もなく歩きまわった俺は、駅近くの公園のベンチでぼーっとしていた。
平手打ちをされたことで、口の横が切れていることもわかっていたが、そんなこと関係ないと言わんばかりに、頭の中は夏穂のことでいっぱいだった。
浮気されて、一方的に逆ギレされて、一方的に叩かれて、それなのに夏穂のことが忘れられなくて今も好きだなんてどうかしてるとも思っていた。
単純に振られたという事実しかも浮気されていたということすべてを認めたくなかったのかもしれない
そのまま夜が来ても、何もしないでベンチに座って空を眺めていた。
その時に見た空がすごく綺麗で印象に残った。
だから冬菜ん家からの帰り、あの場所で空を見上げたんだ。
20時くらいに公園の入り口で誰かが地面を踏む足音がした。
だから、空から目を離して公園の入り口に目を向けたんだ。
そしたら、たまたま買い物に出ていたのか、その公園の入り口をお前が通りかかった。
俺は、はじめ夏穂が探しに来てくれたのかと思った。
けど、立ち姿が夏穂じゃないことに気づいて、落胆して目をそらしたんだ
勝手に期待して、勝手に落胆して酷い話しだよ
でも、俺を見たお前が、「何してるんですか? 大丈夫ですか?」と声をかけてきた。
でも、夏穂じゃないと落胆していたから、聞かれたことに返事をすることもなく無視をしている状態になった。
[この子もどうせ、素っ気なくしたら酷いとか言ってここから居なくなるに決まってる]
そう思っていたんだ。
でも、お前だけは違った。
俺がカイロしか持っていないことに気づいたお前は「気休めにしかならないかもしれないけど」と言いながら着ていたコートと持っていたマフラーを俺に渡して何を言うわけでもなく「じゃあ私はこれで。コートとマフラーは返さなくていいので、使い終わったら捨てて大丈夫ですから風引かないようにちゃんと帰ってくださいね」とだけ言って、コートとマフラーなしで寒そうにしながら公園を出ていこうとした。
質問にも答えずに何も言わなかった俺に、お前は事情も聞かずにコートとマフラーを貸してくれた。
何を思っていたのかはわからない
でも俺は咄嗟に聞かないとって思って「待って…君、なんて名前?」と言って呼び止めた。
その質問に「冬菜です 佐野冬菜」とだけ言ってペコっと頭を下げて公園からいなくなった。
その後、俺はしばらくそこにいた。
さっきまで夏穂のことで頭がいっぱいだったのに、あの一瞬の出来事で佐野冬菜という子のことが気になって仕方なくなっていた。
いわゆる一目惚れってやつだったのかもしれない
でもその時に、一目惚れで気になっているでも、人に好意を寄せることが怖い
また、裏切られる、相手のステータスになってしまうんじゃないかという思いも心のどこかにあった。
そこから、何分そこにいたのかはわからない
友達からかかってきた電話で、重かった腰をあげて、電車に乗って家に帰った。
その後の中学校生活で、誰かを好きになることもなく告白も断り続けた。
頭の中は冬菜のことでいっぱいだったからな
それから、高校生になった俺は、佐野冬菜というの名前だけを頼りにずっとさがしていた。
その為に住んでいる隣街から、この海南高校に通うことにしたんだ。
1年かけて、冬菜のことを探していた。
同じ学年かもわからない、この街にまだ住んでいるのかもわからない
そもそもこの学校に入学しているのかすらわかっていない
佐野冬菜という名前だけしか知らないほぼ不可能な状態でそれでも会いたくて必死に探し続けていた。
でも、1年経っても冬菜と出会えず、諦めかけていた。
そして高校2年に上がって1ヶ月たったあの日、授業をサボる為に屋上にいった。
そこで、どこかで見たことあるような子に出会った。
それはずっと探していた佐野冬菜だった。
でも、3年前に会った時に比べて、大人びていてその一方で荒れているような印象だった。
初め、俺は幻かと思ったり、他人のそら似なのかと思ったらしい
でも名前を聞いて、疑いが確信に変わった。
姿はあの時と変わっていたけど俺にあのとき、コートとマフラーを貸してくれた人だと