父の歩き方と表情が生気を失ったような顔をしていたが、なんとも思わなかった。
お母さんはそれを止めることもなく、ずっと睨みつけていたが、父の車が見えなくなると私達の方を見た。
そして「ありがとう。言いたいこと言えてスッキリしたわ」と先輩の方を見て言った。
その後私の方を見て「冬菜、隣の方は?」
まるで何もなかったかのように、いつもの優しい口調に戻っていた。
あんなことがあったからすっかり紹介するのを忘れていたことに気がついた私は[この家で1番怖いのってお母さんなのかも…]なんて思いながら紹介しようと口を開きかけたが先輩のほうが早かった。
「冬菜さんと同じ高校に通っている2年の三影奏音です。すみません、ご家庭の事情に首突っ込んでしまって」という先輩
[いつもの悪態ついた態度とクール感満載の言動はどこにいったんですか]ってツッコミを入れたいくらい律儀な態度で驚いてしまった。
「いいのよ。三影くんが入ってくれたおかげで私も言いたいことが言えたの。ありがとう。感謝してもしきれないわ」とお母さんは先輩に頭を下げた。
そして何かを思いついた顔をして頭をあげた。
「もしよかったらご飯食べていかない?もう時間も遅いし今日はあの人もいないことだし」と先輩にとんでもない提案をした。
[もちろん断るよね]っと思いながら先輩を見ると
「いいんですか?」と真逆のことを言っていてもう頭を抱えるしかない
「ぜひぜひ今日のお礼も兼ねて」といって家の中に入ってしまったお母さん
私は「いつもの先輩のキャラはどこにいったんですか? そしてなんであんな提案に乗ったんですか?」と聞くと先輩は
「キャラじゃねーから あれが素なの!ちなみに佐野のお母さんの前での俺も素だから。それと提案に乗ったのは、断る理由がなかったから 以上」と言われてしまった。
私が反論しようとした時に玄関が開いて
「何してるの? 外冷えるでしょ早く入って」と言われ話は中断されてしまった
私は部屋で着替えを済ませ、リビングに戻ると先輩とお母さんが楽しそうに話していた。
机の上には今日出す予定だったのだろう夕飯がきれいに置かれていた
[あんなに嬉しそうに楽しそうに笑って話しているお母さんは久しぶりに見た]
そう思いながらリビングの入り口に立っていた私を見て
「なんでそんなところにいるの?早く座りな?ご飯食べるよ」とお母さんに言われ、リビングのいつもの席に座る
斜め前にはお母さん私の目の前には三影先輩
[なんでこの席順なんだろう…]
地味に緊張する私のことなんか見えてないかのように仲良く話を続ける2人
2人の話は途切れることなく、夕飯を食べ終わるまで続いた。
久しぶりに楽しい時間だった。
[こんな時間がずっと続けばいいのに この中に春樹お兄ちゃんと昔の優しいお父さんがいればもっと楽しかったのかな…]と心のどこかで思っている自分がいた。
ふとお母さんと話している先輩を盗み見てドキッとしてしまう
[先輩ってあんなに楽しそうに笑うんだ]
ついじっと先輩のことを見つめていた私の視線に気がついたのか、先輩が私の方を向いて「なに?」というから
「いや…なんでもないです」って言いながら目線を外した。
今にも心臓が口から飛び出してしまいそうだった。
話に花をさかしている間に時間はどんどん過ぎて、時刻は20時
お母さんが時計を見て
「大変!もうこんな時間。三影くんもう帰らないといけないわよね」と言い、
「もしよかったらこれもらって」と言ってお母さんが先輩に渡したものは、手作りのクッキーだった。
[今日の日中に焼いたのかな]
「いいんですか!! ありがとうございます。」と先輩は嬉しそうにクッキーを受け取っていた。
「帰りは大丈夫?」
「電車なんで大丈夫です。」
「じゃあ駅まで送っていきなさいよ。冬菜?」なんて言われて
「え!なんで…」と言いかけると「なんか不満そうね?」と言われ、
「不満なんてないです。ちゃんと送り届けてきます。」
なんて言う私とお母さんの会話を見ていた先輩が思わずと言わんばかりに吹き出していた。
「また遊びに来てね。すごく楽しかったから」といって先輩を送り出すお母さんに「はい また来ます。俺も楽しかったです。」と返した先輩
そして私と一緒に家の門を出て、駅に向かってあるき出した。
「先輩ってあんなに愛想いい人の演技上手かったんですね」というと
「お前あれが演技だと思ってんの? だとしたら相当の馬鹿だな」
なんて家を出て早々に人に悪態をつく先輩
いつものクールで無愛想な先輩に戻っていた。
「あれが演技じゃないとしたら、どっちが本物なんですか?」
「どっちも本物だから そもそも俺演技とかできねぇから」
「じゃあなんであんなに態度が変わってるんですか」
「基本的に俺が信用してるやつとか好きなやつにはどっちの俺も知っている見せてるでも、俺が嫌いなやつとか信用もないようなやつにはクールな俺しか知らないやつが多い。だから学校はクールな場合が多いんだよ」
「じゃあ使い分けてるってことですか?」
「まあそういうことだな」
そう言った先輩でもその先輩の話にはどうしても矛盾が生じている
「その話の通りなら今日あったばっかりのお母さんにはなんであんなに愛想よく接してたんですか?」
先輩のさっきの話通りならお母さんと会ったのは今日が始めてなんだから、先輩は信用とかはないはずだから先輩がお母さんに愛想よく接していたことは、先輩の考え方にあわなくなってしまう。
「冬菜って意外なところで、勘が鋭いよな」と言われ、
「意外なところは余計です」って返したのにその返しは無視されてしまった。
「その疑問に答えるとしたら、お前のお母さんだからかな」と言う先輩
[どういう意味ですか] と聞こうとした私を遮るかのように私のスマホがなった
お母さんから「コンビニで牛乳買ってきて!切らしてるの忘れてたの」というメッセージが入っていた。
「わかった」と歩きながら返信してスマホをしまい、先輩にさっきのセリフの意味を聞こうと思い横を見ると先輩はいなくて、後ろを振り向くと私の数歩後ろで立ち止まって空を見ていた。
「何見てるんですか?」と先輩に聞くとと先輩は「星見てる」と一言だけ
私も空を見上げると確かに星がキレイに瞬いて綺麗に見えていた。
「先輩、ここで星が綺麗に見えるって知ってたんですか?」そうに聞くと
先輩は「この先の公園に来たことがあんだよそこがめっちゃ綺麗に見える
からもしかしたらって思ったんだよ。何も邪魔するものがなくて、空が綺麗にみえるからな」
こんなに綺麗に星が見えるところがこの街にあるなんて私も知らなかった。
しばらくふたりとも何も話すことなく空を見上げていたが「駅まで行くぞ」と気だるそうにいった先輩の言葉で私も空から目を離して先に歩き出した先輩のあとを追った。
駅に着いて「じゃあな〜」と言う先輩に「ありがとうございました」というと
「別にお礼言われたくてやったわけじゃねぇよ。俺は自分の意思でやっただけだから」と言われたから
「だとしても助けてもらったのは事実なのでありがとうございます。」といった私
ふと何を思ったのか先輩は「お礼を言う代わりと言ったらあれだけどさ敬語やめねぇ?」という
「いや、一応後輩ですし」というと
「俺、敬語苦手なんだよ。使うのも使われるのも、だから敬語禁止そして、敬語をやめることが今日のお礼の代わりな」と言われてしまった。
「禁止ってなんですか!? 敬語を禁止する人なんて初めて会いましたよ」
とツッコむと「じゃあそういうことだから またな」と人の話はやっぱり無視して改札を通りホームへと向かう先輩
「お礼って言われたら断れないじゃないですか!」と思いながら、
その後ろ姿を見ていた私は「三影先輩!!」と気がつくと叫んでいた。
ちょっとびっくりしながらこっちを振り返る先輩に
先の言葉がすぐに出てこなかったが、少し間をあけてから私は
「今日はありがとう。また明日から気が向いたら屋上来てね」とだけ言った。
それを聞いた先輩は私がびっくりするくらい優しい笑顔を見せてホームに向かってまた歩き出した。
私の言ったことに返事をするかのように後ろ手に手を振りながら
先輩がホームに消えていくのを改札の手前で見送った私はその足でコンビニへ行き、牛乳を買って家に帰った。
帰る途中、さっき空を見上げた場所で立ち止まり空を見上げた。
さっきは先輩がいたけど今はひとり…
[なんか寂しいな…]なんてことを思いながら星を見ていたけど[先輩が言っていた公園、今度行ってみようかな]と思い空から目線を戻して家路を急いだ。