帰りのSHRの時間になって教室に向かおうとしていた私を先輩が引き止めた。
「なぁ 今日、帰り一緒に帰らねぇ?」
「…それ私に言ってます?」
「逆にお前意外に誰をこの屋上で誘うんだよ。お前なんか見えてんの?」
「ひど! ていうか私なんかと帰っていいんですか? 先輩モテるのに彼女さんが心配しますよ〜」
冗談っぽく言ったみた私に先輩は
「彼女なんていねーよ。俺は、たった1人振り向いて欲しい人がいるんだよ。」
そんなことをぼやいた先輩は一方的に「帰りのSHR終わったら屋上集合な!絶対先に帰んなよ」
先輩の言った言葉で聞きたいことがあったのに聞く前に、先輩はそれだけ言って屋上から教室へ戻っていった。
[私の返答くらい聞いてから、教室戻ってよ! 聞きたいことも聞かせて貰えなかったし ほんとにマイペース毒舌イケメン]
なんて心の中で先輩のことを毒づきながら、同時に[先輩が振り向いて欲しい人って誰なんだろう、先輩みたいなイケメンに振り向かない人ってどんな絶世の美女なんだろう]と思いながら心のどこかでモヤモヤしていたが、知らないふりをして、私も少し時間を空けて屋上を出て教室へと向かった。
SHRが終わって清掃当番もなかった私は屋上へと荷物を持って向かった。
屋上のドアを開けると先輩はまだ来ていなかった。
先輩が来るのを待つ間音楽を聞きながら時間つぶしをしていると、10分ほどで先輩がやってきた。
「遅いです」そう言うと先輩は
「清掃当番忘れてたんだよ。これでも急いだから、お前こそちゃんと待ってたんだな」なんて言うから後半の無駄口を聞かなかったことにして、
「もう少し人がいなくなってから帰りませんか?」そう提案すると先輩も
「そうだな こんなに人がいっぱいいるところに突っ込んでいくの好きじゃねぇしお前を閉じ込めた奴らに会うのも俺が嫌だからその提案のるわ」
いつも通りのやる気のない冷めた返事を聞きほっとした反面
[忘れてたけど、吉田さんたちに閉じ込められてたんだった。今頃いなくてびっくりしてるかな?
というか、なんで先輩が吉田さんたちに会いたくないの? 何も関係ないのに…]
なんてことを考えたけど先輩に聞く勇気もなく結局聞き流すことにした。
それからお互い好きなことをしていて、気づいたら時計の針は17時半を指していた。
それに気づいた私と先輩は「そろそろ帰るか〜」という先輩の言葉を合図にしたかのようにどちらともなく立ち上がり帰るための準備をする
屋上を出て、玄関まで行き、靴を履き替えて校門までの道のりを歩く
校舎内はもう生徒がほとんどいなかったが、校門までの道のりでは、色々な生徒とすれ違う
その子たちにはめちゃくちゃ見られるし、通り過ぎたあとには「あの2人そういう関係だったの?」「ショックなんだけど…」なんてヒソヒソ話されるし…
そして私は思い出した。
[そうだ…この人、校内一のイケメンでモテ男子だった〜]ということに
そんなことをすれ違う人にされてるのに先輩は気にしていないのか何も話そうとはせずに、校門までの道のりを私と並んで歩いていた。
校門を出たところで「先輩って通学歩きなんですか?」根本的に一緒に帰る上での必要なことを聞くと「俺、通学電車 住んでるの隣町だし 駅からは歩きだけど」と言われ、
「じゃあ先輩、私と一緒に帰ると方向逆じゃないですか!?帰るの遅くなりますよ」そう言っているのに先輩は私の家の方へと歩き出した。
「聞いてます?人の話」
「聞く気ゼロ。俺の帰りがどうとか考えるの余計なお世話だから。お前はそれを考えなくていい」
いつも通りのクールでそっけない返し方
でも何故かこのやり取りに嬉しさを感じたりしている自分がいた。
[先輩のこともっと知りたいと思ったりするのは迷惑なのかな…]
ほとんど話すこともなく、私の家が近づいてきた。
[もう先輩とお別れしないといけないのか…もうちょっと一緒にいたかったな]
なんてことを考えていて周りが見えていなかった。
そして、先輩と帰っていることで気持ちが浮足立って、いつもやっているパーカーからセーターに着替えるのを忘れていた。
私は家の手前で門の前に人影があることに気が付かなかった。
「お前、こんな時間まで何してたんだ。それにセーターはどうした。馬鹿なのか」と怒鳴り声が聞こえてきて、私は始めて門の前に父が立っていることに気がついた
とっさのことで全く心の準備をしていなかった私は反射的に自分の左腕を右手で力いっぱい爪を立てて掴んでいた。
突然ストレスを感じたときの私の癖だ
それに先輩が気づいて右腕を掴まれ、やめさせられた。
先輩が隣にいるのなんてお構いなしに私を怒鳴り続ける父
しばらく、怒鳴っていた父だったが言いたいことを言い終えたのか、怒鳴り声が止むのと同時に
「隣のお前は誰だ。娘になんのようだ。お前のような頭の悪そうなやつと仲良くしているから娘の成績が落ちていくんだ」と先輩のことをけなし始めた父
そして一通り先輩のことをけなし、父は私に向き直り家の門を開け冷酷な声で「早く入りなさい」と告げた。
[もうこれ以上迷惑はかけられない]
そう思った私は震える足で1歩家の門に近づこうとした時、
「お前はそっち側に戻りたいか?」と先輩が私に告げた。
「え…」
か細く出たのは驚きと困惑が混ざった声だった。
「お前はこのままあのバカみたいな大人が支配している牢獄のような家に戻りたいか?」
先輩を見ると、真剣な表情で私の返事を待っていた
と同時にその瞳の奥で [正直な気持ちを言ってみろ] と言われているような気がした。
後ろでは父が先輩に向かって罵詈雑言を怒鳴っていたが私の耳には入ってこなかった。
先輩の言葉に後押しされ、私は父に聞こえるようにはっきりとした声で
「私はもうこんな家に戻りたくない!お母さんと2人で毎日怯えて暮らすのはもう嫌」と言った。
すると父は「何を言っているんだ!これはすべてお前のためなんだ!なんのために俺がここまで教育してきたと思っている。その男に騙されるな」と
その言葉を聞いた私は
[やっぱりあんなこと言ったの間違いだったのかな]と思いかけた
その時ずっと黙っていた先輩が「お前父親である前にひとりの大人として最低だな」
今までに聞いたことないくらいドスの聞いた声で先輩は私の父に向かってそう告げた。
「どういう意味だ。お前には関係ないだろ!俺は絶対に間違えていない」
その言葉を聞くか聞き終わる前にに先輩は
「そういうとこが間違ってるんだよ。子供はお前の所有物じゃねぇんだよ!父親ずらして奥さんのことも娘のことも何も気づいてやれない、考えてもやれないのに何が教育だ!冬菜のためだとかぬかしてんじゃねーよ 全部お前の自己満足じゃねーかよ」
私が言えなかった気持ちを代弁してくれているかのように先輩は父にキレ続けた
[私が言えなかったことばっかりだ…]
冷静だけど、声の低さと言葉の選び方が心底怖い…
その先輩の姿を見ていて私は、怖いという感情よりも、嬉しさと申し訳無さで涙が流れてきた。
どれだけの時間がたったのだろうか気がつくと家の中からお母さんが出てきていた
いつ出てきたのかはわからないが、一部始終を見ていたようでお母さんも少し目が潤んでいた。
そして、先輩に言われ続けて返す言葉が無くなった父はちょうど家の門を少し出たところで棒立ち放心状態だった。
そんな父に向かってお母さんがゆっくりとでも、怒りのこもった声で話始めた。
「あなたは、春樹のときから間違えていた。それを春樹が亡くなってからも認めようとしなかった。同じことを冬菜にもやり始めた。昔のあなただったら絶対にそんなことしなかった。今のあなたのことなんて私も嫌いよ!私の私達の大切な春樹を自殺に追い込んで同じことを冬菜にもしているあなたなんて私も冬菜も大嫌いよ」
始めて聞いたお母さんの怒鳴り声と本当の気持ち
お母さんがそんなことを思っていることもびっくりだったけど、それをあんなに声を荒らげて父にぶつけると思わなかった。
少し驚いている私の横で三影先輩も私のお母さんの行動と言動に驚いたような顔をしていた。
私のお母さんはそんなに人に声をを荒げるようには見えない
実際に声を荒げるような人ではない
私自身もお母さんの行動・言動に驚いていたから先輩はもっとだろう
それから少し経って父はフラフラ歩いて、自分の車に乗り込みどこかへ行ってしまった。