馬の蹄は朗らかな音を立てながら、喧騒から遠ざかってゆく。

休暇に馬車で侯爵邸まで帰った道は、こんなにも凸凹はしていなかったけれど。


優しいお母さん、強くてかっこいいお父さん。
そして可愛い妹。

まだみんな一緒の屋敷で暮らしていた頃。

すごく仲が良かったわけじゃなかったけどなぜか無性に淋しくなって、我が家が懐かしくて。

今日はやたら昔を思い出すなあ、賑やかな街だったからかな、と思いながら小窓から見える、街の中心に位置する時計台を見やる。

もうあんなに、小さく見える。


少し名残惜しい気持ちと、静けさが戻ってきた落ち着きと、見つからずに済んだという安心感。


怪しい人とか誰かを探していそうな人に話しかけられることも見かけることもなかった。

流石に花嫁学校の生徒1人を探すためだけに、国外の王都まで探しに来るだろうか。

よく考えれば可能性は低い。

...ゼロじゃないから用心するに越したことはないけれど。


「本当にありがとう。怪しい人はいなかったし1つも危険な目に遭わなかったけど、それもきっとあなたのおかげ。楽しかったし、美味しいお菓子も食べられたし。...これもすごく嬉しい」


「ケーヤク通りのことをしただけだ」

「うん、でもありがとう」