フェランドールには、そんな概念は浸透していないのだろうか...?
医学を学ぶのは、医学校に通えるのは、下級貴族か上流市民の、男子だけだった。
お産だけ。
女が関われる唯一の医療行為は、お産だけだ。
人の肉体が、どんなにすごいか。
必要ないものは何一つとしてない、美しい人間の体。
生物の進化がいかに素晴らしいことか。
自分だけが知っていれば充分だと思っていたし、知ってほしいと思う人も知りたいと言った人もいなかった。
誰にも、話したことはなかった。
家族が聞いたらきっと猛反対か失望されるかだろう。
イヴァンに言ったのが初めてだった。
「何を勉強するのが一番楽しいか」と珍しく質問され、嘘はつけない、と小さく「医学」と答えた。
でもイヴァンは決して、女だからどうとは言わなかった。
そして何より驚いていなかったし、性別の点に関しては心配はいらないのかも。
でも、でも。
やりたいからといって、診療所を開き、監修者がいない中好き勝手はできない。
人はおもちゃではない。
替えはきかないのだから、下手なことは許されないのだ。