医学書だけは異国語でも読めるように、と頭に叩き込んできたが、これじゃどこに何があるかも分からない。


でも、とりあえず眺めてみよう。

読めるものもあるかもしれない。


そう思い、実面積の数倍はあるであろう広い広い書室を見て回ることにした。



散々迷路のような本棚の間を縫い、やっと見つけた。


辞典らしき大きな本が並ぶ、天井まである壁際の棚に。

アヴィヌラでもなくフェランドールでもない共通語、エナノフ語の辞書だった。


思わず歓喜の声を上げたくなった。

フェランドール語は完全に独学だったが、エナノフ語は学校の授業でも少し勉強した。

授業は少しだけで終わったが、楽しくてその後も自分で本を買ったのだった。


手を伸ばすとしゃらん、と音がして、棚を覆っていた淡く揺れるベールを通り抜け、本の背に触れる。

音もして目に見えるのに、触れない。

とても不思議で、とっても素敵だ。