【颯人】



 僕の初めてを、あの子が盗んでしまった。

 最初は興味本意だった。

 僕の容姿に群がってこない女の子なんて、いないと思っていた。

 それなのに、入学式の時、1人の女の子がそそくさと僕の横を通り過ぎた。

 そんな人は初めてで、不思議だった。

 だから、惚れさせてみようと思った。



       ***



 いろんな段階を踏んで、2人きりになる機会を作った。

 あとは、告白をするだけ。

 そう、一言話せばいいだけ。

 それだけで、簡単に女の子は惚れる。



「ねぇ、恵ちゃん」



 甘い声を出す。

 普通なら、ときめく場面。

 なのに彼女は、キョトンと首を傾げただけだった。



「なに?」



 僕は少し息を吸って、優しく笑いかけた。



「好きだよ」



 白馬の王子様が言うような、甘い言葉。

 多分、恵ちゃんは時が止まったみたいに驚いただろうな。

 だって、キョトンとしているんだもの。

 これで、惚れてくれたかな?

 だけど返ってきたものは、ニッコリの笑顔だった。



「私も好きだよ!」