3月は新年度に向けて忙しい時期。
それは、都会でも田舎でも大人でも子供でも変わらない。
別れや出会いの頃でもありイベントごとも多いし、みんながどこか気ぜわしい。

「ねえ、晴日ちゃんは東京の人なの?」
「そうよ」

ここに来て1週間。
ちょうど春休みだったこともあり、お寺に遊びに来る子供達とはすぐに仲良くなった。
大学で保育を先行していた私は子供が嫌いではないし、中には遭難した時の私を見つけてくれた子もいてすっかりお友達感覚だ。

「いいなあ、東京」
「俺も行きたい」
「私はディズニーランドに行きたい」

口々に東京へのあこがれを話す様子を、私はニコニコと見つめていた。
たくましくて、無邪気で、行動力も旺盛な子供達。
その証拠に、今はみんなで秘密基地を作ろうなんて話題で盛り上がっている。
かわいいなあ。私にもこんな頃があったのに、何でおかしくなってしまったんだろう。

「晴日ちゃんも一緒に裏山へ行きましょうよ」
「え?」
小学生に誘われ、答えに困った。

私が遭難した3月の雪はこの地域でも大変珍しい大雪で、今でもまだ道端や畑の中に雪が残っている。
ただ、大人にとっては煩わしさしかない残雪も子供にとってはいい遊び道具らしく、春休みで退屈している子供たちはその雪で遊ぶつもりらしい。

「ごめんね、私はまた迷子になったら大変だからやめえとくわ」
さすがにこれ以上迷惑はかけられないもの。

「何だあ」

子供達は残念そうな顔をした後、遊びの計画を立て始めた。