翌日は、何の変哲もない朝だった。
私の熱はすっかり下がり、天気も晴天。
何もかもが春に向かって動き出したように感じていた。
しかし・・・

「あなたーっ」
珍しくお母様の焦ったような声が聞こえた。

私もどうしたんだろうと廊下に顔を出したその直後に、ドタドタドタと足音がして、
「「おばあさん」」
お父様と隆寛さんの声が響いた。


それから一時間後。
主治医の先生も帰り、静かになった光福寺にはお父様の読経が響く。
この時になって、私はやっと亡くなったおばあさまに対面できた。

「奇麗なお顔でしょ?」
「ええ」

家の中で一番いい部屋である表座敷に布団を敷き、眠っているように横になるおばあさま。
お気に入りだったという着物を着せてもらい、キレにお化粧もしていつもよりも若く見える。
享年88歳。昨日まで元気にしていたことを思えば大往生だったといえるのかもしれないけれど、突然おばあさまを失った家族の思いは複雑だろう。

「もう少ししたら親戚や町の方がみえるはずだから、晴日ちゃんは自分のお部屋に戻っていらっしゃい」
すでに喪服に着替えたお母様は忙しそうに動きながらも私のことまで気づかってくださる。

「はい。でも、なにか私に手伝えることがあればおっしゃってください」
「ありがとう、助かるわ」

今でこそ田舎でも葬祭会館を使っての葬儀が増え、自宅に人が集まることは少なくなったらしい。
けれど、お家がお寺であればよそに出向いて葬儀をという選択肢はない。

「「ごめんくださーい」」
玄関から大人数の声。

どうやらおばあさまの訃報を聞きつけて集まった人たちらしい。