恋をしたのはお坊様

それから10分後。

「晴日さーん」
私を呼ぶ声がして、ジーンズにセーター、ダウンコートを着た隆寛さんが現れた。

「隆寛さん・・・すみません」

うっすらと額に汗をかいているところを見ると、かなり急いできてくれたのだろうと申し訳なくなり、つい謝ってしまった。

ドンッ。

それに対する返事が聞こえてくるのかなと思っていたら、まっすぐに私に向かってきた隆寛さんがそのまま私を抱きしめた。

え、ええ。
声にならない声を上げ、私は金魚のように口をパクパクとさせる。

「花屋から花は届いたのに君が帰ってこなくて、心配になって電話したら裏山にいるっているし、どれだけ心配したと思っているんだよっ」
「・・・ごめんなさい」
随分心配をかけてしまったらしい。

「雪の裏山は危険だから近づくんじゃないって言ったばかりだろ?」
「別に裏山に入るつもりは無くて・・・」
少し一人になりたかっただけで、深い意図はない。

それにしても、今私を抱きしめているのは本当に隆寛さんなのかしら?
いつも穏やかに話す隆寛さんとは別人のような強い口調だ。

「はあー、無事でよかった」
クイッと両肩を押して私から離れると、隆寛さんがしていたマフラーを私に巻いてくれた。

「あの、私は」
大丈夫だからと言いかけたけれど、
「いいからそうしていて。ほら、帰るよ」
当然返事なんて待つことなく、私の肩を抱えて歩き出すのは隆寛さんに間違いない。

その後隆寛さんの車に乗せられお寺までの数分間は、まったく口を開かない隆寛さんとの無言の時間。
どうやら私は隆寛さんを本気で怒らせてしまったらしい。