ここは母の実家がある岡山県の北部。
岡山は『晴れの国』のイメージ通り穏やかで温かい気候の土地柄で、間違っても雪国なんかじゃない。
そりゃあ瀬戸内海側ではなく中国山地に近い場所だから雪だって降るし、無計画に入れば迷ってしまうような山道もある。
それでも、私は子供の頃遊んだ記憶をたどって裏山に入っただけ。決して登山をするような山で迷ったわけでもなく、遭難するはずはなかった。

これも私の運命かな。
遠のいていく意識の中でそんなことを考えた。
都会育ち私にはここ以外に逃げ出す先がなくて、子供の頃の記憶をたどってやって来た。
絶対に死に場所を求めてきたわけではない。
それでも、東京にいる友人たちはそう思わないだろうな。


「あ、誰かいるよ」

え、聞こえてきた声。
目を閉じてしまった私には見えないけれど、子供の声に聞こえた。

「もしもし、もしもし、しっかりしてください。わかりますか?」
今度は男性の声。

そのうちに頬に温かさを感じて、私はゆっくりと目を開けた。

「ああ、気が付きましたね」

コクン。
まだ言葉が出なくて、頷いてみる。

真っすぐに私を見下ろすのは帽子をかぶった男性。
うん、綺麗で精悍な顔立ち。
当たり前だけれど、見覚えのない顔だ。
その後ろには小学生らしき子供たちの姿もある。

「とりあえずうちに運びますから、じっとしていてください」
そう言うと、私の返事を待つことなく男性が私を抱え上げた。