目を覚ますと、
まず視界に入ったのは灰色のタイルの見慣れない天井。
ボーっとした頭に、
どこかで嗅いだことのある匂いがここをどこか認識させる。
…病院?
えっと、
俺…
アスカを駅に送って、
それから…
どうしたんだっけ?
「透也ッ!」
名前を呼ばれて、
声のした方を見る。
母さんが、今にも泣きそうな顔で立っていた。
「母さん…」
「透也、あんたってば…もう…」
下を向いたまま肩を震わす母さん。
そんな母さんの肩を看護婦さんが抱いて、
「よかったですね、意識が戻って」
と、
子供をあやすように語り掛ける。
「お母さん、気持ちはわかりますけど、泣かないでください」
「ほ、本当に…」
「…お母さん?」
「―――ッの、バカ息子ッ!!」
母さんの怒鳴り声といっしょに、でかいヴィトンのバッグが俺に向かってとんできた。
それは、俺の頭にジャストミートする。
「い、いってぇぇぇ!?」
「あんたってヤツは!どんだけ心配かければ気がすむの!」
ガンガン痛む頭を抱える俺を気にもとめず、ひたすら怒鳴りつける母さん。
今度は病室にある花瓶を振り上げたので、さすがの看護婦さんも必死に母さんを止めに入った。
意味がわかんねぇ。
母さんは怒りだすし、
頭は死ぬほどいてぇし。
…誰か、
この状況を説明してくれよ。
