「手……そんなことしたら、怪我しちゃう」

 そんなあたしにハッと気付いた先輩は、切れ長の目であたしを睨むと、なにも言わずにあたしの手を振りほどいてその場を立ち去った。


 あ、あたし、今、なにした……?

 見ず知らずの人にあんなこと。

 あ‟~!! あんなの、ただのお節介野郎だわ。

 なんで見て見ぬフリできなかったんだろ。 


 思い出しただけでぞわっとして、ひとりで頭をかきむしる。


 完全に無意識だった。

 でも……がんばってたもん、あの人。

 なのに、思うような結果が出せなかったことにあんなに苦しんでて。

 見て見ぬフリなんてできなかった。


 あんなふうになるまで一生懸命やったことなんて、あたしにはなにひとつない。

 だから、あの人の気持ちは、本当のところはわからないんだろうけど。

 それでも、すごく悔しいんだろうなっていうのだけはわかった。

 そして——ちょっとだけ、うらやましかった。