「やだなあ、空耳ですよー。それに、あんまりみんなにジロジロ見られるのもイヤなんで、朝練の人に見られるくらいがあたし的にはギリ限界かなーって。だって、佐野先輩ってめちゃくちゃモテるんですよね? ウワサによると」

「ウワサによるとって。そーいうのって普通本人に聞かないだろ」

 そう言って、佐野先輩が苦笑いする。

「そういえば、俺、おまえの名前も知らないんだけど」

「麻井陽菜です。一応覚えておいてくださいね。カノジョの名前を知らないのは、さすがにマズいと思うんで。あ、でも別に連絡先の交換はしなくていいです。正直スマホって面倒臭くないですか? 即レスとか全然ムリだし、会って直接言えばいいじゃんって思っちゃうんですけど」

「そーいうとこ。マジで男らしいよな」

「それ……褒めてます?」

 あたしがジト目で佐野先輩を見ると、

「褒めてる、褒めてる」

 と笑いながら返された。