「小雪先生からも、同じようなお話を聞いた事があります」
「え、そうなの?」
「ええ。今は、子どもをナーサリーに預けている社員は私だけだけど、今までも何度か、社員のお子さんを預かることはあったんですって」
「そうだね。社員割引が効くし、委託しているベビーシッターの会社からも、子どもの人数が増えても対応可能だと言われている。あの部屋の広さも充分だしね」
「そうですね。そこは問題ないと思います」
「じゃあ何が問題なのかな?」
「通勤です」

通勤?と、一生は眉を寄せる。

「ええ。社員のみんなが、ホテルのすぐ近くに住んでいる訳ではないですよね?独身寮はあるけれど、ファミリー向けはないし、結婚後は子育てしやすい郊外に引っ越す人が多いです。女性社員なら、ご主人の職場近くに住む人も。そうすると、ホテルへの通勤時間は長くなります。いくらホテルのナーサリーが格安で使えるとなっても、小さな子どもを連れて満員電車に乗るなんて…現実的ではないです」

あっ!と一生は、思わず声を上げる。

「満員電車か…確かに。それは無理な話だ」

すみれを連れてギューギューの電車に乗ることを想像して、頭を振る。

「諦めて、家の近くの保育園に預けようと思っても、どこも待機児童が多くて入園は難しいみたいです」

なるほど…と一生が頷いていると、瑠璃はさらに続けた。