『夏海賢斗』のことが嫌いだった。

俺の好きだった人を、あっけなくフッて泣かせたやつだから。


彼女があいつと付き合い始めたとき、俺は素直に自分の失恋を受け入れた。

とてもじゃないけど太刀打ちできる相手じゃないと思ったから。


嬉しそうな彼女を見て、幸せになってほしいと確かに思ったのに。

俺のそんな思いは、三週間もしないうちに打ち砕かれてしまった。

いつも笑顔の彼女が泣いている姿を見て胸が痛んだ。


でも。

人より少し成績が良いとか人当たりが良いぐらいで、突出した取り柄があるわけでもない。

そんな何者でもない俺が、あいつに何か文句を言ってやることなどできるわけがないと思った。



そんな感じで夏海賢斗への嫌悪感を募らせたまま三年になった俺は、図書室で初めてあいつと顔を合わせた。

太刀打ちできないと思っていたあいつが嫉妬心まる出しで俺を睨み付けてくる様子を見て、俺は優越感を抱いた。


かなわない相手じゃなかった。


あいつの腹の中をぐちゃぐちゃにしている手ごたえが得られる度に、俺の中の何かが満たされていくような気がした。

俺が早坂さんに話しかける度に、あいつはどす黒いオーラで俺を威嚇してきた。

そんな様子が面白くて仕方なかった。