私を見下ろしていたのはいま会いたくて仕方がなかった人、夏海くんだった。


「あっ・・・」


ずっと考えていた人と唐突に顔を合わせてしまって、思考が停止した私の口からは言葉が出てこない。


「おはよ・・・早坂」


もう話しかけてくれなくても仕方ないと思っていたから、夏海くんが私に挨拶をしてくれただけで泣きそうになる。

それと同時に、名字で呼ばれることにチクリと胸が痛んだ。


「お、おはよう夏海くん・・・あ、あのっ・・・」


しどろもどろに話す私の様子に少し困惑したような表情になった夏海くんは、何も言わずに私の横をすり抜けて廊下へと出て行った。


こんなんじゃだめ、勇気を出して。

今話しかけなかったら、もう二度とチャンスはおとずれない。

それくらいの気持ちで一瞬一瞬を大事にしなきゃ。


震えそうな全身にグッと力を入れた私は、


「夏海くん!」


とお腹の底から声を出して彼を呼び止めた。

速い動作で振り向いた夏海くんは驚いた顔で目を見開いている。


「は、話したいことがあるの。今日――――」


キーンコーンカーンコーン

そこまで言葉を発した瞬間、予鈴が鳴り響いて私の声が止まってしまう。