夏海くんは引き続き無言だった。

表情もよく見えないし、何を考えているのかわからないし、沈黙が重い。

その上、学年一のモテ男子と一対一で話しているというこの状況に急に焦りだした私は、


「私も本読むの好きです」


と、聞かれてもいない自分のことを口走ってしまった。

何を言ってるんだろう・・・もうダメだ・・・。

自分の会話の下手さが恥ずかしくて耐えきれなくなった私は、再び軽く会釈をして今度こそ夏海くんの前からそそくさと立ち去った。



それから、私が委員をやっているあいだに一度だけ図書室で夏海くんを見かけたけど、言葉を交わすことはなかった。


二年生になって同じクラスになってからは毎日姿を見ることになったけど、やっぱり夏海くんは私とは住む世界が違っていた。

私のことはもちろん覚えていなさそうだったし、話すこともなければ、夏海くんの視界に私が入ることもない。

図書室で視線を合わせて会話をしたあの日のことは夢だったんじゃないかと思うほど、私と夏海くんの世界は交わりそうになかった。


夏海くんは今でも図書室に本を読みに行っているのかな。


そんなことを何か月も経った今でもふと思い出すほど気にしているなんて、自分でもおかしいと思うんだけど・・・。

でも、夏海くんがあの日どんな表情で私の答えを聞いてくれていたのか、今でも少し気になっているんだ。