どんな君も、全部好きだから。

「そういえば、どの本を取ろうとしてたんですか?」


夏海くんが取ろうとしていただろう本も一緒に片づけてしまっていたことに気づいて聞いてみる。

すると夏海くんは一冊の本を指さして、


「あれ。宇宙の不思議、みたいなやつ」


と短く答えた。


「そうなんですね。片づけてしまってすみません。ゆっくり読んでいってくださいね」


私は夏海くんに小さく会釈をして、委員の仕事に戻ろうとした。

そのとき、


「俺みたいなのが本読みにきたとか、変じゃない?」


ふいに夏海くんから話しかけられた。


・・・どういう意味だろう?

どう答えるのが正しいのか咄嗟にわからなくて、私は夏海くんを見ながら固まった。

窓から差し込む日差しが夏海くんの背中を照らしていて、逆光で表情はよく見えない。

でも無言で視線を向ける夏海くんは私からの返答を待っている様子だったので、私は考えた。


『本を読みに来るのが変な人』なんていないはず。

誰がどんな本を読んでも、それは何も変なことじゃない。

そう思った私は、


「変だとは思わないです。本読むの楽しいですよね」


と答えた。

無難な言い方でしか返せない自分の会話力のなさに、我ながら呆れてしまう。

でも、変じゃないと思ってるのは事実だから、嘘は言っていない。