どんな君も、全部好きだから。


書店から少し離れた人通りの少ない場所で立ち止まった夏海くんが、ゆっくりと私の方へ振り返る。


「さっきあの三年と何してたの?」


もう何度も感じたことのある、このどす黒い嫉妬の空気。

先輩と話しているところを見ていたんだろうか。


「・・・ぐ、偶然会ったからちょっと話してただけだよ。参考書探してたらおすすめしてくれて―――」

「それで、なんであいつが優依の頭に触るの?」


夏海くんは感情の読めない目で私を見ている。

でもその表情とは裏腹にまとう空気は重苦しくて、私の心臓はドクドクと早鐘を打ち始めてくる。


「そ、それは・・・私もよくわからなくて・・・」


刺すような眼差しは目を逸らすことを許さないと言っているようで、私は夏海くんと視線を結びながらしどろもどろに答えた。

無表情で私を見ていた夏海くんの目に、ふいにいつもの温かさが戻る。


「ごめん、俺・・・」


そう呟いて一瞬悲しそうな顔をした夏海くんは、ゆっくりした動作でぎゅっと私を抱きしめた。


「これからバイトで、ちょうど本屋の前通りかかったら優依と三年のあいつが中にいるの見えて・・・」


そこまで言って私を抱きしめる腕に少し力を込めた夏海くん。


「・・・優依がほかの男に触られるの・・・無理・・・」


泣いているんじゃないかと思うほどか細い声でそう囁いた後、夏海くんがそっと私から身体を離した。