「早く来ないと押し倒すよ?」
何それ。
脅しだって分かってる。
無理強いするような人じゃないと分かってるんだけど。
でも、急に黒豹みたいな獰猛な目つきになってキスしてくることもあるし。
可能性がゼロとは思えない、と脳内で答えを弾き出した。
押し倒されるくらいなら、ぎゅーくらいならいいかな?
そう思った私は、彼に体を預けた。
久しぶりの抱擁感はとてもあったかくて、ドキドキが止まらない。
シトラス系の彼の香りを脳が覚えていて、その安心感に包まれた。
「明日は学校来れそう?」
「多分、行けると思う」
「無理すんなよ」
「ん」
優しく頭を撫でられる。
いつもはお団子にしてて、撫でられてもほんの少しなのに、今日はたっぷりとなでなでされた。
ほんの少し腕が緩んだから、もういいのかな?と思って彼を見上げたら。
おでこに、触れる程度の優しい口づけが。
もうっ、こういうキザなことをサラッと出来ちゃうところが本当に憎たらしい。
いつだって動揺するのは私だけなんだもん。
余裕すぎるそのクールフェイスをいつか崩してやりたいと思ってしまう。
どんな風に破顔するのか、見てみたい。
でもって、寸分たりとも違わずに絵にしたいから……。
いつになることやら分からないけど。
「このピンのお礼は何がいい?」
「何でもいいの?」
「……あ、変なことを言うのは止めてね」
「変なことって、どんなこと?」
「……分かってるくせに」
「フッ」
彼が言うお願い事って、大抵イヤらしいことに直結してる。
だから、自分で言っておきながら無意識に身構えてしまう。
彼から視線を逸らした、その時。



