「彼氏くん、何飲む?」
「あ、大丈夫です。持って来たんで」
「じゃあ、何食べる?」
「お気遣いなく。お昼食べて来たばかりなので、大丈夫です」
「律儀な子ねぇ~。うちの息子なら遠慮なくあれこれ言うわよ?」
「アハハッ……」
自分の親くらいの年齢の受付の人。
名札に夏木と書いてある。
適当に見繕いながらお菓子を器に乗せ、それを手渡された。
「さっきの階段で3階に上がって、一番奥の部屋がひまりちゃんの部屋ね。その2つ手前がお手洗いだから」
「え、勝手に上がって大丈夫ですか?」
「大丈夫よ。さっき先生と話したでしょ?今点滴してて寝てるけど、2時間くらいしたら針抜きに行くから、それまでラブラブしてて大丈夫よ♪」
「っ……」
何やら不敵に微笑まれてしまった。
どんなイメージされてんだか。
「じゃあ、帰る時はまた病院の方にお願いします」
「はい、分かりました」
夏木さんは来た道を戻って行った。
途端に静けさに包まれる。
ご両親は仕事中、お兄さんは医大にいるだろうし。
本当に今家の中には、俺とひまりの2人きりらしい。
階段を上がるスリッパ音が妙に耳に響く。
彼女の部屋に近づくにつれ、変な緊張が走る。
アメリカでも彼女はいた。
ただ、自分が好きになった子ではなく、言い寄られて断るのが面倒で付き合った子。
それなりに可愛い部類だったけど、性格的に強引な所が目に余った。
それに比べ、ひまりは古風な感じでお淑やかすぎる。
もう少し弾けてくれてもいいのにと思うほど。
けど、その清楚で古風な感じが男心を擽るんだ。
最奥の部屋の前に到着した。
オレンジ色の花が描かれた『ひまり』と書かれたルームプレート。
彼女らしくて、笑みが零れた。



