帰宅途中の電車の中。
一人でさっきの出来事を目を瞑って思い出す。

長い睫毛、形のいい眉、綺麗な瞳、片方だけアレンジでピン留めされた髪、シャープなフェイスライン。
キュッと結ばれた薄い唇、白く揃った美しい歯、吹き出物一つないキメの整った肌。
ほどよい喉仏、色気のある鎖骨、形の美しい耳朶、細長く綺麗な指先、男性には不釣り合いの整えられた爪。
形状のよい頭蓋骨、身長に対しての完璧な肩の位置、高い腰の位置、理想を遥かに超える脚の長さ。
頭部と上半身と下半身の完璧なバランスと、それを維持する理想的な筋肉量、背中に背負ったギターケース。
極めつけは……少し掠れた感じのハスキーボイスなのに、艶があり甘く痺れるような心地よさを兼ねた声質。

「あぁ~どれをとっても完璧すぎるっ」

無意識に声に出てしまった。
だって、今年一番、……ううん、生まれて来て一番美し過ぎるほど完璧な容姿のイケメンを目にしたんだもん。
漫画の世界から飛び出して来たような王子様スタイルで、しかも、軽々と私の体を受け止めてくれた。

『………平気か?』
いや~~っん、全然平気じゃないっ!
あんな風に熱く見つめられたら、心停止確実だからっ。

生まれてこの方男運がなくて、彼氏という存在とは無縁だから男性に抱き留められることなんて無いと思ってたのに。
しかも、初めての人があんなにもイケメンだなんて……。
一生分の運を使い果たしたかも、うん、絶対そうだ!

早く帰ってスケッチしなきゃ。
王子様の残像が……。

電車に揺られながら、脳内に残る彼を必死に何度もリフレインして完璧すぎる比率の容姿を焼き付ける。