彼の素顔は甘くて危険すぎる


(不破視点)

橘 ひまり、俺の隣の席の子。
誰にでも優しくて、裏表がなく、いつでも俺を気にかけてくれる子。

その彼女の視線は他の子の視線と違って、作られた上辺の俺を見るだけでなく。
幾重にも厳重に隠した素の俺自身までもを見透かしそうな、そんな瞳をしていて。

言葉で言い表さなくても、ちゃんと伝わるように気遣ってくれる。
そんな彼女が俺自身が知らない俺を毎日のように描く。

彼女と過ごすうちに、自分でも知らなかった感情を引き出してくれて。
それが、新たな俺の曲として、次々と色んな形に仕上がってゆく。

いつからだろう?
彼女のための曲を作りたいと思ったのは。

日々過ごすうちに自然と紡いで来た時間を音符にして譜面に落とすと。
意外にも自分が誤魔化していた感情に気付かされた。

彼女を見つめて、ただ書きたいと思ってただけでなく。
彼女自身をもっと見ていたい、感じたいと思うようになって。
いつしかそれが、彼女への自分の想いなんだと気付いてしまった。

誰かのために曲を作るのはこれが初めて。
空想上の人物を思い描いて書いた曲とは違い、想いの乗せ具合が全然違う。

だからこそ、その曲を最初に聞かせるのは、当然彼女であって欲しいから。
我がままを言って、生収録にして貰った。

クリスマス・イブ。
特別な日。

偽の恋人であっても、彼女と過ごした時間は本物だから。
一緒に過ごした時間で紡がれた俺の想いが、伝わったらいいな。

今時の女子高生と違いメイクもせず、真のナチュラルさのある正統派の美少女。
本当は人目に触れさせたくないんだけど、今日ばかりは仕方ない。