彼の素顔は甘くて危険すぎる


駅へと向かいながら、ふと隣にいる彼を見上げる。

「超売れっ子なのに、送迎の車も無いし、マネージャーも専属の人いないんだね」
「……別に必要ないでしょ」
「え?」

前に山本さんから聞かされたけど、彼の専属ではないらしい。
彼が『要らない』と言ってるから、仕方なく『担当』という感じでマネージメントしてるって。
でも、何故?

「よく考えてみ?」
「ん?」
「どんなに売れてても、顔もバレてないのに、運転手付きの車で会社に出入りしてたら目につくし、こうして制服で行き来してるのも、練習生扱いってことにしてるからなんだよね」
「………ん」
「だから、あえて、マネージャーも運転手もつけて無い方が、素人扱いみたいでバレないってこと」
「あぁ~なるほどね」
「しかもさ、こうしてデートも堂々と出来んじゃん?」
「へ?」

デート?
不慣れなワードを耳にして、思考が急停止した。

「これって、デートなの?」
「だろ?……ほれ、手繋いでるし」
「………えっ?!」
「何、その反応」

確かに彼に手を握られていて、制服デートしてる風に見えるけども、………けども!!
これが、世で言うデートなの?!

「あそこで食べよ?」
「……うん」

ハンバーガーのファストフード店を指差す彼。
脳内が軽くクラッシュしてて、食欲云々じゃないんだけど。

14時を過ぎててテーブル席に空きがあり、うちらはそこで昼食を摂った。
クリスマス・イヴだから、街を行き交う人の表情も楽しそうで。
店内に流れるクリスマスメロディーに流され、少し前の彼のセリフを忘れそうになっていた、その時。