彼の素顔は甘くて危険すぎる


エレベーターで地上1階へと上がり、受付にネームホルダーを返却する。

「腹減った。何食べる?」
「え?」
「お腹空いてない?俺、ペコペコなんだけど」
「あ、……結構空いてる」
「だよな」

既に13時45分。
すっかり昼食を食べ損ねた時間帯だ。

数分前のプロの顔とは違い、今目の前にいるのはいつもの彼だ。

「何?」
「いや、いつもの不破くんだなぁと思って」
「何だ、それ」
「さっきの、歌ってる時は別人だったから」
「あぁ……ん」

納得したようで、ほんの少し恥ずかしそうに視線を逸らした。

「凄くいい曲だね、さっきの新曲」
「ひまりへのクリスマスプレゼントだから」
「………へ?」
「分からなかった?口パクで伝えたんだけど」
「………」

クリスマスプレゼントって、企画のことじゃなくて………私へのってことだったの?
え、えっ、それって……。

『Eye』って、もしかして私の絶対視感のことなの?
言われてみれば、彼と過ごしたこの数カ月の出来事を表現したような歌詞だったような。

いやいや、まさかね。
私のためにわざわざ曲作ったりしないでしょ。
ありえない妄想しちゃったじゃない。

無駄にイケメンすぎる王子様が、『クリスマスプレゼント』だなんて甘い声で言うもんだから、勘違いしちゃう。

「おい、聞いてんのか?」
「あ、………ん。ありがと」
「それだけ?」
「え?」

それだけ?と言われても。
他に言い返す言葉が見当たらない。
そもそも、プレゼントを貰う資格もないんだけど。
それに、私は何も用意してない。
交換するような関係だったっけ?うちら……。

「ま、いいや」