プロデューサーによる合図でギター演奏が始まり、蕩けるような甘い歌声が聞こえて来た。
事前に『1曲だけ、生演奏する』と告知がされていたようで。
巷では誰が演奏すんだろう?と話題になっていた。
とはいえ、今人気絶頂の彼が演奏すると思ってる人が大半なんだけど。
まさか、未発表の曲だとは思ってないはず。
私なんて、『SëI』だろうが『Rainbow Bridge』だろうが『芸能界』だろうが、全く興味がないから、その事前告知ですら知らない始末で。
いつも隣に本物の『SëI』がいるというのに……。
あっという間の4分半ほどが過ぎ、真下さんのMCで生収録が無事に終わった。
「お疲れさま~っ!」
「お疲れさーん」
「お疲れ様でした」
「いい声だったよ~」
「ありがとうございます」
ブースから出て来た彼は、スタッフとハイタッチしながら、滅多に見せない笑顔をしていて。
そんな彼が輝いて見えた。
「じゃあ俺ら、これで」
「もう帰るの?」
「他に用はないでしょ」
コートを羽織った彼は鞄を手にして、もう片方の手で私の手を掴んだ。
「クリスマス・イヴなんだから、デートの邪魔しないですよね?」
「え?」
「お、ごめんごめん。彼女待たせちゃ可哀そうだよな」
「そそ、……んじゃあ、また何かあったら連絡下さいっ」
「お疲れさーん」
「ひまり、行くぞ」
「へ?」
「橘さん、またね」
「あ、………はい」
何だか分からないけど、お仕事は終わりらしい。
彼は楽しそうに私の手を引いて歩き出した。



