エレベーターで地下1階へと降りる。

「あの、不破くん」
「ん?」
「何で、連れて来たの?」
「1人にしておけねぇだろ」
「………」

昨日、例の詐欺男(勝手に命名)が学校の最寄り駅に待ち伏せしてて。
偽彼氏の不破くんが対応してくれて、何とかその場は収まったけど。
不破くん曰く、暫く警戒した方がいいって。
何だか、とてつもなくご迷惑をお掛けしている状況。

自宅に帰ってもいつも通り一人だし。
不破くんは仕事や練習もあるというから、結局こうして彼の行動に金魚の糞みたいにくっついてる。

「迷惑かけてごめんね?」
「別に、……迷惑じゃねぇよ」
「でも……」
「いいから、もう喋んな」
「んッ……」

謝罪の言葉も言い訳すらも言わせないように、彼の手が私の口を塞いだ。
こういう優しさ、ホントに何度目だろう。

着いた先はレコーディングスタジオ。
幾つかあるスタジオの一番奥の部屋に入る。
そこには既に何人かのスタッフがいて、一斉に視線が注がれる。

「山本さんは知ってるよな?」
「……ん。こんにちは。突然お邪魔してすみません。不破くんのクラスメイトの橘と申します」
「いらっしゃい、紹介するわね。こちらがプロデューサーの小野さんで、こちらが制作スタッフの真下さんと坂庭さん」
「初めまして……」
「『SëI』の彼女?可愛い子だね。読者モデルとかしてるの?」
「えっ?………いえ」
「え、してないの?栞ちゃん、うちの事務所にスカウトしなよ」
「小野さん、私も思ってたんですよね~。メイクしたら絶対売れると思うもの」
「んっ?」
「ひまりはこの世界には出しません!」
「えぇ~っ、何でぇ~!!」