(不破視点)

「いつも美味しいメシ作って貰ってるお礼だかんな」

こうでも言わなきゃ、こいつは俺の条件を受け入れないだろ。
迷惑がかかるだの、一人で何とかするだの、言い訳しそうだ。

それに、俺の気が済まない。
毎日怯えてる彼女を眺めて、いい曲が出来るとも思えない。
彼女自身だって、絵に集中出来ないだろうし。

我ながらナイスアイディア!
一石三鳥。

「他に触られたとか、何かされたとかは?」
「うーん……」

考え込むな。
『ない』と言え。

「えっとね……」

あるのかよっ!
あーマジで危なっかしいやつだな。

「こういうのって普通するもの?」
「……ん?」

彼女は手にしていた皿をシンクに置き、一旦流水で手を洗い流してから濡れた手を拭いて……。
そして、俺の前に立った彼女はそっと俺の頬を撫でた。

「寒くない?って、こうやってそんなに親しくもない人にもするもの?私なら出来ないんだけど……」

しねぇよ。
親しい友人でも。
好きな子とか彼女なら別だけど。

「するわけねぇだろ」
「だよね?」

うんうんと頷く彼女。
今頃納得しても遅ぇっての。

「んっ?!……え、……何ッ?!」

警戒心なさすぎの彼女に、ほんの少しお灸をすえる。

洗い物をするために捲られた袖。
細く華奢な手首が露わになってて。

その両手首を掴んで、キッチンの脇の壁に張り付ける。

俺の行動に驚く彼女は動揺して、目が泳ぎ始めた。