彼の素顔は甘くて危険すぎる


(不破視点)

11月下旬、土曜日の午後。
事務所の本社に呼び出された俺とひまりは、社長室にいる。

「みんな揃ったか?」
「はい」
「12月24日発売予定の1st アルバムがこれ。それと、同時リリースで10枚目のシングルCDがこれだ」
「見ていいですか?」
「ん、いいぞ」

ジャケットと歌詞カードのデザインを初めてひまりが担当したもの。
それに記載されているクレジットを確認すると、そこには『ℋℯ』の名が記されている。

「わぁ~、凄~いっ!」
「ひまりちゃんのデビュー作になるわね」
「はいっ」

社長と秘書の中田さん、俺の担当の山本さん、プロデューサーの小野さん、制作スタッフの真下さんと坂庭さん。それと、ひまり担当の三木さん。
このメンバーが『SëI』の極秘チームだ。

「予約開始は少し前倒しにして、12月1日になってるから」
「了解です」

他のアーティストだと、宣伝も兼ねて色々な放送局廻りをしたり、大手CDショップに営業に行ったりするけど。
俺の場合はそこら辺が全て非公開になってる分、出たとこ勝負。

一応、街頭ディスプレイだとか電車内の吊り広告とか、ありとあらゆる場所に宣伝広告は出すけど。
本人が表立って宣伝することは一切ない。

「年末はどうするんだ?」
「実家に帰る予定ですけど」
「じゃあ、中田。コメントを作成して、チェックして貰ってくれ」
「了解です」
「そんな時期ですね」
「早いもんだな」

年末年始に向け、公式発表のコメントを作成しなければならない。
メディアに出ているならば、直接インタビューに答えたら済むのだけれど。
メディア非公開の俺は、常に幾つかのコメントを事前に用意しておく必要がある。