彼の素顔は甘くて危険すぎる


無条件でお願いごとを聞くという約束。
それを反故にするのは俺のプライドに反する。

泊めるだけなら出来ないこともない。
俺の部屋に彼女を泊めて、俺が両親の部屋で寝れば済むことだし。

だけど、何だろう。
彼女が『泊まりたい』と勇気を出して言ったことを無視するようで、心が痛む。

かと言って、はいそうですかと安易に手を出すのは間違ってる気がするし。

はぁ……。
本気の恋って、悩ましいことばかりだ。

「先にお風呂使う?」
「いいの?」
「ん」

彼女がお風呂に入っている間にシーツを替えたりしなくちゃだし。
その間に考え直すかもしれないし。

そんな淡い期待を抱きながら、彼女を浴室へと送り出し、俺は自室へと向かった。

**

シャワーを浴び終えた俺は、洗面所で髪を乾かしていると、コンコンとドアがノックされた。

「どした?」

ドアの隙間から覗いた彼女は、『乾かしてあげる』と言いながら入って来た。
鏡越しに映る彼女。
見慣れぬパジャマ姿にドキッとする。

キッチンに置いてある折り畳み椅子を手にして現れた彼女は、俺にそれに座るように促し、俺の手からドライヤーを取り上げた。

「一度でいいから乾かしてみたかったの♪」

楽しそうに温風を当てるひまり。
そんな彼女に釘付けになってしまう。

あまりにも綺麗で。

普段見せないような表情。
お風呂上がりだからなのか。
見慣れぬパジャマ姿だからなのか。

男心を擽るには申し分ない、そんな状況で。