彼の素顔は甘くて危険すぎる


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「かんぱーい♪」
「美大合格おめでと」
「ありがとっ」

宅配ピザにジュースにフルーツ、それとさっき帰りに寄って買ったケーキ。
特別なことはしなくていいというが、そうはいかない。

普段はブースに飲食を持ち込み厳禁にしてるけれど、今日は特別にブース内でお祝いすることにした。
いつもひまりが座るローソファーの所にテーブルも置いて。

「弾いて欲しい曲は?」
「全部」
「……え」
「不破くんが演奏してくれるなら、何でも嬉しい」
「そういうこと言うと、襲うぞ?」

ミュージシャンの彼氏がいても、弾いてとねだられたことがない。
あまり興味がないのかと思えば、スマホで聴いてる曲は俺の曲ばかり。
おねだりすることを躊躇してるのか、頼みづらい雰囲気を俺が出しているのか。

彼女がして欲しいことが、いつもながら分かりづらくて。
仕方なくブース内でお祝いしたら、リクエストし易いかな?と思ったんだけど。
返って来た言葉は『何でも』。
それじゃあ、いつもと殆ど変わらないじゃん。

溜息を吐きながら、適当に演奏し始めた。

それを嬉しそうに眺めてた彼女は、おもむろにブースの一角にあるコーナーへと。
……やっぱり、今日も絵を描くらしい。

画材が置かれているコーナーからクロッキー帳と鉛筆のケースを持ってソファーに座った彼女は、楽しそうに描き始めた。
なんてことない日常。
いつもと何ら変わらないその光景が、幸せの時間なんだと改めて実感する。

「ヴァイオリンとか三味線とか弾けるの?」

突然の質問に手が止まる。

「ヴァイオリンは少しくらいなら。三味線は弾いたことないけど、教われば弾けると思う」
「すごーーーーーーいっ!!」