彼の素顔は甘くて危険すぎる


**

「お野菜が少なくなって来たから、少し買ってもいい?」
「ん、いいよ」

冷蔵庫の中を確認した彼女は買い物リストをメモして、近くのスーパーに買出しに来ている。
カート押しながら楽しそうに食材を選ぶ彼女を眺め、なんか新婚みたいでこの雰囲気が毎回心擽られるんだよな。

このまま、別れずにずっと彼女と付き合ってたら、いつかは結婚するのだろうか?と。

ちょっと前までは考えもしなかったことなのに。
自分の両親と彼女の両親も公認な上、ひまりとの相性も凄くいいと実感している。

だからこそ、自然と思い描いてしまうんだろうけど。

「あっ、『SëI』の曲だよ!いいよねぇ、彼の声」
「最近の曲さぁ、恋愛の曲が多くない?」
「多い多いっ!絶対、恋愛してるよね~」
「どんな人だか分からないけど、羨ましいよねぇ、彼の彼女」
「うんうん」

お菓子コーナーにいる女子高生っぽい若い女の子の会話が耳に入る。
こうして噂話をされるのは日常茶飯事だけど、『恋愛してるよね』というフレーズにドキッとしてしまった。
やっぱりバレるもんなんだな、と。

「不破くん、これ買ってもいい?」
「ん」
「次は飲み物コーナーに行こ?」
「ん」

店内に俺の曲が流れてても、ひまりはいつも通り。
変に挙動不審になったりしないのが有難いというか、気負わなくて済む分、安心できる。

必要なものを購入して、自宅へと戻る途中。
荷物を持っていない方の手で彼女の手を掴むと。

「さっき、女の子たちが不破くんの話してたね」
「俺じゃなくて、奴の話、な」
「あ、そうだった」

ニコッと微笑むひまり。
やっぱり話を聞いても、聞かないフリをしてくれていたようだ。
その優しさが嬉しくて、ぎゅっと繋いだ手に力を込めた。