(ひまり視点)

アーロン氏と話し合いをするために、彼が宿泊しているホテルのロビーラウンジを訪れた。
約束の時間の10分前に。
ラウンジ内を見回しても彼の姿は見当たらない。
入口から分かりやすい場所に座り、アイスミルクティーを注文した。

店内にはピアノの生演奏でジャズ調の曲が流れていて、高級感が漂っている。

電車を一駅乗り過ごして慌てて走って来たこともあり、スマホのカメラで汗ばんでいないか確認する。
不破くん以外の男性と待ち合わせたことがない私は、緊張のあまり喉が渇いてしまって。
注文したミルクティーで喉を潤した。

事前に秘書から送られて来たメールには、契約書にあえて記載していないことがあるといい、それも込みで再検討して貰いたいというもの。

何故、あえて未記載にしたのか。
何故、両親がいる時に話してくれなかったのか。

私に白羽の矢が立ったことさえ、まだ実感が湧いてないのに。
考えることが多すぎて、許容量を既にオーバーしている。

約束の時間の少し前に彼は現れた。
先日の時の服装とは違い、少しカジュアルな感じの装い。

白いデニムに淡い水色のYシャツ、それにサラッとした生地の薄手のカーディガンを合わせている。
モデルだといっても誰も疑わないような容姿に、彫刻のような堀の深い顔立ち。
さらに白い肌に青い瞳。

映画の世界から飛び出して来たようなイケメン貴公子に見える彼は、優しい笑みを浮かべながら隣の席に座った。