Aaron Camille という男が宿泊しているというホテルのロビーラウンジを訪れる。
ひまりのことが気になり、彼女が到着する15分ほど前に。
ラウンジの奥に大きな観葉植物が置かれていて、その横にグランドピアノが置かれている。
「ご注文をお伺い致します」
「アイス珈琲を」
「アイス珈琲ですね。少々お待ち下さい」
ピアノに程近い席に座った俺は、ウェイターに手を上げ、アイス珈琲をオーダーする。
程なくして、アイス珈琲が運ばれて来た。
「あのっ」
「はい」
「あのピアノは、弾いても大丈夫ですか?」
「はい。19時以降になりますと、不定期ですが、ピアニストによる演奏が行われますが、それ以外でしたらご自由にお使い頂けます」
「では、お借りします」
「ごゆっくりどうぞ」
アイス珈琲を口にして、辺りを見回す。
最奥に近い場所にピアノが置かれているため、ラウンジのどの席に座ってもある程度は見渡せそうだ。
ひまりと画材メーカーの社長が来る前にピアノの椅子に座り、クラシックをジャズアレンジして弾き始めた。
ラウンジの雰囲気がそんな曲を弾いて欲しそうに思えて……。
数分後、ひまりがラウンジへとやって来た。
俺の言いつけ通り、肌の露出は少なめな格好で。
入口から少し入った窓際の席に座ったひまりは、スマホを取り出し髪形をチェックし始める。
俺以外の男に会うのに、髪形を気にしているその姿にイラっとする。
まさか俺がこの場にいるとは思ってないようで、ピアノの方を見ることは一度もない。
突上棒で持ち上げられた屋根に隠れて彼女を視界に捉えたまま……。



