彼の素顔は甘くて危険すぎる


10月8日月曜日。
いつものように早めに登校したひまりと不破は、お互いの教室がある校舎を繋ぐ渡り廊下でしばしの逢瀬。

「メールに書いてあったけど、申し出は本当だったってわけ?」
「うん」
「で、……どうするつもり?」
「まだ決めてない」
「……決めてない、か」

不破くんに説明するのも難しい。
絵を描き続けることでかなりの出費があるのは当然で。
楽器と違い、美術の画材道具は消耗品ばかり。
だからこそ、スポンサー契約は願ってもいない話なのは間違いないんだけど。

それを受け入れることで、留学を交換条件となると、正直困る。
やっと好きな人に出会えて、その人と両想いになれたばかりなのに。
離ればなれにはなりたくない。

それに、フランス語も出来ないのに単身1人でフランスになんて行けないし。
そもそも、日本でだって美術を勉強することは出来るはず。
そりゃあ、芸術の本場で感性を培う方が良い事も多いだろうけど。

本当にどうしたらいいのか、一晩中考えても答えなんて出せなくて。
両親はしっかり考えてからでいいと言うけど、あまりにも待たせるのもよくないかと思う。

今までは画材代の殆どを両親が出してくれていたけれど、絵師として契約したバイト代で少しずつでも賄えるなら、スポンサー契約しなくても済むんだろうけど。
こればかりは、誰にも分からない。
私に稼げるような絵が、果たして描けるだろうか?

好きだから描く。
なのに、画材代を稼ぐために描くとなると、本質的なところが捻じ曲がるような気がして。

何も考えずにこれまで描いて来たから、1人で答えを出すには時間がかかりそうだ。