彼の素顔は甘くて危険すぎる


「フランス語出来ないし、留学だなんて考えたこともない」
「そうよね。美大ですら、まだなのにね」
「……うん」
「すぐにとは書かれてないし、話し合いの余地はあると思うけど、申し出があった以上、きちんと返答しないとならないぞ」
「うん、分かってる」
「来月の7日に来日するらしいから、それまでに少しでも考えを纏めておかないと」
「……うん」

フランス語で書かれた契約に関する条項詳細の紙の他に、日本語で書かれたものが添付されていて。
更にそれとは別に、今後の活動に関する方向性が記されていた。

父親がいうには、プロのスポーツ選手がどこかの企業に所属しながら、色んなスポンサー契約をするのと同じだと。
だから、Rainbow Bridgeと契約した上で別の企業からスポンサー契約するのは違法ではないらしい。
とはいえ、事務所側に報告した上で相談もしなければならないけれど。

「ひまり」
「何?」
「まだ書類が入ってた」
「え?」

封書の中から別紙の冊子を取り出した母親。

「これ、フランスの美術展の公募の申し込み書みたいよ?」
「えっ?」

冊子に書かれていたのは、欧美国際公募 美術賞展、パリ国際サロンなど、海外を拠点とする公募のもの。
特にパリ国際サロンは日本にいる画家は推薦式になっているため、簡単には応募出来ない。
それこそ、現地にいる画家のための美術展だからだ。

美術展の存在は知っている。
新国立美術館や有名な美術館に行けば、パンフレットやポスターがあるため、目にしたことがある。

そんな夢の舞台への扉が、こんなにも近くにあるだなんて、それこそ夢の世界の話なのに。