彼の素顔は甘くて危険すぎる


(ひまり視点)

9月下旬。

不破くんに依頼された『選ばれし者』の絵が完成した。
暗雲立ち込める雲間から眩いほどの陽の光が急に降り注ぐ様を。

不破くん曰く『瑞祥(ずいしょう)』と言うらしい。
吉祥の印で、古代中国では皇帝が帝位に就く時や、戦時下で勝利した時など、めでたい時に現れる現象と言われているらしく。

来秋公開予定の映画の世界観がそれを現しているらしい。

水彩画、油絵、鉛筆画、パステル画、ソフトによるデジタル画など、様々な画材で描き上げた。
これが、どのように使われるのかはまだ知らない。
映画関係者から正式に採用された場合、改めて契約する運びになるらしい。

そんな知らせを受けた、翌日。
両親から意外な話を持ち掛けられた。

「ひまりはどうしたい?」
「どうって言われても……」
「声をかけて貰えることはある意味名誉なことだと思うけど、それに伴って責任も付いて来るからな」
「うん」

これまでの美術展で何度も私の作品を見て来たという、とある人物からスポンサー契約の話が舞い込んだ。
フランスの老舗画材メーカーの社長さんで、Aaron(アーロン) Camille(カミーユ)氏。

何年か前の美術展の作品でファンになったらしく、それ以来何度も来日して作品を見て来たという。
そして、これからの成長にと、画材提供の申し出をしたいと。

美術展に応募した際の連絡先が自宅になっていることもあり、フランスからその旨が記された書類が届いたと両親から聞かされた。

絵を描き続けることはかなりお金がかかる趣味でもある。
それに、フランスに絵の留学も視野に入れて、活動拠点をフランスに移してみないか?という申し出。

突然降って湧いたような出来事に思考が追い付かない。