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「は?じゃあ、昨日の用事って、二科展の展示会を見に行ったのか?」
「うん」
「俺は?」
「行く約束してなかったよね?」
「そういう問題かよっ」
「え?」

展示会に行った翌日。
不破くんにそのことを伝えたら、ブチ切れされた。
どうも一緒に行きたかったらしい。

今まで毎年両親と行ってたから、『不破くん』という存在をすっかり失念していて。
今、猛抗議を受けてる。

「展示期間はまだあるから、じゃあ一緒に見に行こうよ」
「『じゃあ』って、何」
「え?」
「何か、どーでもいいみたいな言い方だな」
「………別に、そういうわけじゃ」

相当ご立腹のようです。
完全に拗ねた子供状態で、唇尖らせて視線を合わせようとしない。

「ごめんね?毎年両親と行ってたから」
「ふぅ~ん」
「機嫌直してよ~」

プイっと顔まで逸らされてしまった。
どうしたらいいんだろう?

パリ賞を受賞したと伝えたかったのに、展示会に行って来たという話題でこの状態。
お祝いして貰いたいのに、言い出し難い。

「あのね……」
「何だよっ」

怒ってる不破くん、物凄く怖い。
不機嫌な時も結構怖いけど、完全に切れてる彼はドライアイスみたいで、触れたら怪我しそう。

いつもみたいにシャツをほんの少し掴んで引っ張ろうとしたら、物凄い力で振り払われた。
今までこんなにも怒ったことないから、どうしていいのか分からない。

私に背中を向け、ギターのチューニングを始めた。
そんな彼の背中を見つめ、次第に視界が歪んで来る。

褒めて貰いたかっただけなのに……。

「んっ……ッ……っんッ……」
「………あ、何で泣いてんだよっ」
「だって……」