10月下旬。
すっかり冬支度を始めた北風が頬を撫でる。
ブレザーの下にセーターやカーディガンを着ないとお腹が冷えちゃう。

「橘、いつも悪いな」
「大丈夫ですよ。……これが最後ですか?」
「ん、あとは山田先生と片付けるからもう帰っていいぞ」
「はい。先生さようなら。木内先輩、熊谷先輩、お先に失礼します」
「お~、気を付けて帰れよ」
「ひまりちゃん、ありがとうね~」

担任の斉藤先生は、園芸部の顧問をしている。
といっても、名ばかりで部員は2人。
華道家の2人しかいなくて、花壇の花の入れ替え時にはかり出される。
すっかり枯れた夏の花々を抜き、花壇の土を綺麗に均したところ。
先輩2人に挨拶して、その場を後にした。

***

翌朝。
いつにも増して体が重い。
昨日久しぶりに花壇を耕して、全身運動をしたせいだ。
体のあちこちが筋肉痛になっている。

「湿布貼って寝たのに……」

腕や肩だけでなく、背中も足も腰も痛くて。
最悪なのが、手までもが筋肉痛だということ。
重たいスコップを硬い土に突き刺し、何度も掘り返したお陰で、親指の付け根部分が痛くて仕方ない。

暫く絵を描くのも控えないとダメそうだ。
学校の玄関で靴を下駄箱に入れるために前屈みになったはいいが、背中と腰が痛くて悲鳴を上げそうになった。

「あ、……おはよ」

足下に見慣れたスニーカーが現れ、彼だと気付く。
お隣の席の不破くん。

彼に無様な格好を見られたくなくて、痛みを帯びてる体に鞭を打ち、素早くローファーを下駄箱に入れた。