彼の素顔は甘くて危険すぎる


2階の彼の部屋に行くと、廊下を挟んで奥に防音設備が施された部屋があり、ロスでも音楽中心の生活らしい。
その部屋で先ほどの曲を弾いてくれた。

『選ばれし者』というのは、壮大なスケールの映画の主題歌らしい。
まだ非公開になってる情報で、映画の脚本自体も全貌が明らかになってるわけではないらしく。
だから、彼も困ってるようだ。

だけど、曲を聴いた感じでは、日本らしさはない。
どちらかというと、古代の中国っぽい感じのような。
音がそう思わせるのか、曲調がそう思わせるのか。
とにかく、私が思い描いていた世界観とは全くの別物だ。

色んな楽器で試してる彼を眺めて、何となく浮かんだ情景を描く。

暗雲立ち込める雲が、一瞬にして変わる様。
雲間から光が降り注ぎ、地上の人々はそれを吉祥の出来事だと崇めるような……。

色が無いのが残念だけど。
鉛筆でも十分表現は出来る。

A5サイズのスケッチブックに鉛筆を走らせる。
角度を変え、色んな表情を描くために。
人差し指で色を暈し、幻想的な雰囲気を出していた、その時。

「すげぇっ!!」
「えっ……?」

夢中で描いてて、彼が目の前にいることに気が付かなかった。

「めっちゃ雰囲気的にこれ、ドンピシャ」
「そうなの?」
「うん」

彼は私の手からスケッチブックを取り上げ、まじまじと見つめて。
その表情から、満足のいく出来のようだ。

「ひまり、サンキュ」
「フフフッ」

褒められた。
しかも、久しぶりの頭なでなで。
思わず顔が綻んじゃう。