(ひまり視点)
球技大会の翌週。
中間試験が行われている。
運動は苦手だけど、勉強はもっと苦手。
美術の授業に試験がないのが悔しいくらい。
とはいえ、赤点になるほど勉強が出来ないわけではない。
常に中の上くらいの成績。
平均点を少し上回り、そこそこの順位をキープ出来ればそれで十分。
多くは望まない。
才能豊かな人がこの世に溢れているというのに、あれもこれもを望んでも全て手に入るわけじゃない。
絵を毎日飽きるほど描いて、満足出来る仕上がりが1枚でもあれば嬉しい。
進路は美大に行くつもりだから、文系を頑張れば……。
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お隣の席の不破くんは、いつも俯き加減で何を考えているのか分からない。
だけど、勉強は出来るらしい。
各学年の上位20人の名前が貼り出されるのだが、彼の名前がそこにあった。
ということは、日本語はやっぱり完璧に話せるらしい。
日本語が苦手かもしれないという勝手な思い込みはこの時、消去された。
「……何でもない」
無意識に彼をガン見していたらしい。
私の視線に気づいた彼が『何?』とでも言いたげな感じで小首を傾げた。
「これ、あげる」
「………」
無言の会釈。
『ありがとう』と言いたいらしい。
言葉が喋れるなら話せばいいのに。
何故話したくないのだろうか?
やっぱり、咽頭系の病気なのだろうか?
手術をすると声が出し辛くなるとネットに書いてあった。
出せてもしゃがれた声が暫く出るとか……。
プライベートなことは干渉出来ないけど、気遣いくらいは出来るのに……。



