彼の素顔は甘くて危険すぎる


(ひまり視点)

ドッジボールの試合中に突き指し、保健室で手当てして貰った私は、クラスのテントがある場所に戻ると心配そうに見つめる不破くんと視線が絡まった。

「不破くん、さっきはありがとね」
「………」

無言の頷き。
さっきは男らしく『後ろに隠れてろ』だなんて言ったのに。
別人かと思ったくらいびっくりした。
試合が終わった途端にいつもの彼に戻っていた。

だけど、ほんの少しだけクラスのみんなと溶け込んでるのが嬉しくて。
ついついポケットから飴を取り出し、先生の目を盗んで彼に差し出す。

「内緒ね?」
「………」

マスクをしている彼は、ほんの少しそれをずらして飴を口に入れた。
……やっぱり、シャープなフェイスラインと色気のある唇だ。
マスクしてたら勿体ないのに。

彼は今日も掠れた感じの声だった。
きっと風邪ではなく、アレルギーとか咽頭の病気なのかな?

何で日本に来たのかは聞かされていない。
親の仕事の関係なのかもしれないけど、もしかしたら治療をするためなんじゃないかと勝手に思い込んでる私。
彼の私生活に興味があるわけじゃないけど、もし治療で日本に来たのなら、もう少し気を遣ってあげた方がいいのかも、だなんて勝手にお節介気質が顔を覗かせる。

***

「2日間、本当にお疲れ様でしたぁ~!バレー優勝、バスケ準優勝、おめでとうっ!!」
「少ないけど、先生からアイスの差し入れだ!喧嘩しないで分けろよ?」
「やったぁ~!」
「先生っ、さんきゅ~!」
「先生、ありがとうございます」
「橘、お疲れ様。帰ってゆっくり休めよ」
「……はい」