彼の素顔は甘くて危険すぎる


俺目掛けて飛んで来たボールを、何故か橘が取った。
しかも、突き指したっぽい。

「ひまちゃん、大丈夫?」
「……うん、大したことない」
「無理すんな」
「ありがと」

俺のすぐ横で彼女に駆け寄るメンバー。
彼女は指先を気にしつつも、平静を装って笑顔で返している。

絵を描くのに大事な右手なのに……。

「っ……ん?……大丈夫だよ?大したこと無いから」

無意識に彼女の腕を掴んでいた。
そんな俺に驚いた彼女は、再び愛想笑いのような笑顔を見せる。
本当に大馬鹿が付くほどのお節介な奴だ。
俺のことなんて放っておけばいいものを。

審判の笛で再開した。
あ、しかも怪我した橘狙いっぽい。
悪趣味な奴らだ。
勝ちに拘るのも分からなくはないが、さすがに怪我した女子を狙うとかありえねぇだろ。

「んッ?!……何っ?」
「後ろに隠れてろ」
「え?」

再び無意識に彼女の腕を掴んでいた。
だって、これ以上怪我したらと思ったら、体が勝手に動いてたっての。

よく見たら、橘の右手人差し指の爪が割れていたから。
負けず嫌いの性格が顔を覗かせたらしい。

俺の突然の行動に戸惑う橘を背後に隠し、相手のマークをガードする。
橘の足下を狙って飛んで来たボールを容易くキャッチし、相手チームの女子目掛けて投げ返し、アウトにした。

「不破っ!いいぞっ、その調子~っ!」

担任が声を張り上げてる。
周りの生徒も同調するように応援し始めた。

コートチェンジし、再び開始を知らせる笛が鳴る。

**

1人、また1人とアウトにし、制限時間終了を知らせる笛が鳴った。

「みんなよく頑張ったっ!お疲れさ~ん」

合計ポイント1点足りなくてうちのクラスは負けたらしい。