彼の素顔は甘くて危険すぎる


6月下旬。
すっかり梅雨に入り、毎日ぐずついた天気が続く中。

放課後、彼女を連れて事務所の本社を訪れる。

「不破くん、本当に私に会いたいって?」
「うん」

俺が水面下で着々と進めて来た企画。
それを今日、正式な形として彼女に打ち明ける為に連れて来た。

『社長が会いたいらしい』という口実で連れて来た。
企画自体を話したら、ネタバレになるからそこはちょっとだけ伏せた形で。

ひまりは戸惑いながら、俺の背に隠れるように少し後ろをついて来る。
隣を堂々と歩けばいいのに。

『社長室』と書かれた部屋の入口に到着した俺らは、山本さんと秘書の中田さんと共に入室する。

社長は通話中で、ソファーに通され、少し待たされる。

「ひまり、緊張しなくても大丈夫だって」
「………」

俺のYシャツを掴んで、不安そうな顔つきの彼女。
来る最中も『別れろって言われたの?』とか、『マスコミにバレたの?』とか。
俺との関係のことが気になるらしい。

先月、あんなにも諭したってのに。

「お待たせ、悪いね待たせてしまって」

社長の菅野が応接セットのソファーにドカッと腰を下ろした。
すると、秘書の中田さんが珈琲をテーブルに置く。

「ひまりちゃんだったよね?」
「……はい」
「不破からよく話は伺ってます。何度かお会いしてるけど、覚えてるかな?」
「……はい」
「今日はね、折り入ってお願いがあって来て貰ったんだけど」
「……?」

彼女が俺に助けを求めて来た。
だから、小さく頷いて安心させる。

「大丈夫。脅しとかそういう類じゃないから」
「……はい」

社長は柔和な表情でタブレットと書類をひまりに差し出した。