彼の素顔は甘くて危険すぎる


約30分ほどの話し合いは無事に終わり、相手側が退室した後、部屋を隔てていた襖が開かれた。

「お疲れ様、無事に終わったよ」
「有難うございました」

久我弁護士が示談書を手渡してくれた。
そこには、アイツの自署が書かれている。

「お義父さん、今日の報酬貰っても?」
「あぁ、いいよ」
「不破くん、これにサインして貰えるかな?」
「はい?」

差し出されたのは俺のCD。
話を聞くと、俺のファンらしい。
しかも、俺が断ったら諦めるという約束らしく、さっきまでのカッコいい彼ではなく、ちょっと可愛らしい彼が目の前に。

「喜んで」
「良かったぁ。断られたら今日の仕事、無料報酬だったよ」

俺が滅多なことがない限りサインをしないと聞かされていたらしく、微かな望みでここへ来たらしい。
いやいや、『書いてくれ』と言われれば幾らだって書くのに。
ひまりのためなら……。

「1枚でいいんですか?何枚でも書きますよ?」
「えっ?!」
「あ、じゃあ、次からリリースする時は、久我さんの分を別に用意します」
「本当に?」
「はい!」
「じゃあ、今後も何かあったら、遠慮なく言ってね?」
「ホントですか?すっごい、心強いですっ!」
「俺、音痴だから、歌が上手い人尊敬する♪」
「えぇ~、全然見えないです」
「勉強一筋で生きて来たから、歌はどうもねぇ……」

インテリジェンスな雰囲気とは真逆の、砕けた感じの笑顔で頭を搔きむしる彼。
そのギャップが男の俺が見ても可愛らしく思えた。

「じゃあ、不破。その示談書は事務所で預かるな」
「あ、写メだけ取らせて下さい。彼女を安心させたいんで」