彼の素顔は甘くて危険すぎる


5月2日、放課後。
いつものように空き教室へと向かう。
その足取りは重いながらも、明日から5連休が待っていると思うとほんの少し気が楽になる。

昨日みたいに隙を与えないように、気を引き締めないと。
自分自身に言い聞かせ、空き教室のドアをくぐった。
すると、いつもは椅子に腰かけ私が来るのを不敵に微笑みながら待っている彼が、今日はリュックを肩に掛けたまま窓にもたれていた。

「今日はナシで」
「え?」
「この後、ちょっとマネージャーと会うことになってて」
「……そうなんだ、分かりました」

1分1秒でも一緒にいたくないから有難い。
これで数日間の連休も含めて、暫く解放される。

彼は足早に教室を出て行った。

成瀬くんとは連絡先を交換していない。
あえて交換しないようにしてある。
不破くんの連絡先を削除させる代わりに、成瀬くんとの連絡先も交換しないという条件。

何となくだけど、彼はマネージャーやスケート連盟とかの目を気にしてる感じがする。
数日前に校門の所に迎えに来たマネージャーとのやり取りがそう思わせる。

マネージャーにも優等生の仮面を被っているのか、その口調は私と会話する時とは別人。
フィギュアスケートは選手として活動するにはアマチュアでなければならない。
プロに転向すると同時に、選手活動を引退しなければならず。
だからこそ、選手で居続けるためにはクリーンでないとならないんだと思う。

そこにつけ込むようにして、言いなりにだけはならないように必死で抵抗する。